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日外会誌. 101(11): 770-777, 2000


特集

救急医療における中毒医療の現況

4. 急性中毒における高度救命救急センターの役割

杏林大学 医学部救急医学

田中 秀治 , 島崎 修次 , 後藤 英昭

I.内容要旨
1998年夏,いわゆる和歌山カレー砒素混入事件がおこった.これに続くように,アジ化ナトリウム,タリウム混入など,薬物を用いた殺人事件が急増し世の中を騒がしている.これらの中毒事件の特徴は,毒物による不特定多数の殺人を目的として,食品や飲み物に薬物が混入されているので,患者の入院時には食中毒と誤られ,薬物中毒であることを特定できないことである.厚生省はこの事態を憂慮し,全国の高度救命救急センター10カ所全施設にスクリーニング用HPLCを2台,イオンクロマトグラフィー,蛍光X線装置,ガスクロマトグラフィー,高周波プラズマ質量分析装置など高度な薬物分析装置を配備した.これらの機器は従来,薬物中毒分析用に使用していた高速液体クロマトグラフィー(ReMEDI)にくらべ,拮抗剤が存在する薬物(25種類)の迅速な分析と4,000種類にわたるほとんどの工業薬品,化学品,医薬品のライブラリー検出を可能としている.今後は高度救命センターが中核となって,2次医療圏内の救急病院に向けての未知の薬物の測定や薬物情報提供を行っていくことも念頭に中毒救急体制の整備をはかっていくべきと思われるが,そのためには分析に習熟した技師の育成とともに分析体制の見合うだけの保険検査料の確保が必須となろう.この点に関して継続的な行政側の支援体制作りが急務と考えられた.

キーワード
高度救命救急センター, 薬物分析体制


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