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日外会誌. 101(11): 764-766, 2000


特集

救急医療における中毒医療の現況

2. 日本中毒学会の現状と役割

日本医科大学 医学部救急医学

山本 保博

I.内容要旨
中毒治療は患者に遭遇した医師の独自の勘や経験に頼っていた時代があった.珍しい症例,地域性の強い中毒などは学会発表などによって共有化を図るべきであるのに,その役割を担う学会がなく,治療経験の共有が図れなかったからである.そういう意味で日本中毒学会や日本救急医学会の発足は意義があったし,その責任を果たしてきたと自負している.
中毒治療における実践の場では,その中毒特有の症状や徴候を知っているのといないのとでは救命率にも,ひいては社会復帰率にも影響する.中毒急性期において,迅速な結果報告を期待される分析においても「原因物質はまったくわからないが,分析を頼む」では手のつけようがない.
薬・毒物に関する治療情報については,すでに(財)日本中毒情報センターが十分に機能しており,日本中毒学会としてはこのセンターをよりバックアップしていく方針である.現在同センターでは,毒物混入事件などの集団災害発生時にその原因物質を推定するための診断補助データベースの開発や中毒関連分野の専門家の登録と紹介システムの構築,インターネットを利用した情報提供体制の確立などを準備中である.さらに「日本中毒分析センター」設立に向けて「分析のあり方検討委員会」を中心に具体的方策が練られている.
また,臨床中毒専門医育成の必要性はいうまでもないが,冒頭に述べたように独自に研鑚を積めばスペシャリストになれるわけではない.中毒治療の豊かな経験と,必要な情報を迅速に取りだせるシステムを把握していることが求められるのである.と同時に原因物質の分析と治療の検証を行い,その経験を共有するに耐える情報として提供することまで行えてこそスペシャリストたりうる.つまり臨床で活躍する中毒専門医を支える分析などの基礎系のスペシャリストの存在が不可欠である.こうした体制構築の役割を担う日本中毒学会の責任は重い.

キーワード
日本中毒学会, 日本中毒情報センター, 日本中毒分析センター, 中毒専門医, 情報共有化システム


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