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日外会誌. 101(9): 612-617, 2000


特集

新しい免疫の啓蟄-外科学とのかかわり-

7.癌抗原ペプチドワクチン
遺伝子同定から臨床研究へ

1) 久留米大学 医学部免疫学
2) 久留米大学 先端癌治療研究センター
3) 久留米大学 集学治療センター

伊東 恭悟1)2) , 山名 秀明3) , 七條 茂樹1) , 山田 亮1)2)

I.内容要旨
メラノーマのみならず上皮性癌(腺癌及び扁平上皮癌)においても,宿主キラーT細胞(Cytotoxic T Lymphocytes, CTL)により認識される癌抗原が遺伝子レベルで同定され,それら癌拒絶抗原遺伝子によってコードされるペプチド分子が多数明らかにされつつある.その結果,癌細胞特異的CTL誘導能を有するペプチドを基剤とした癌特異免疫療法への期待も高まりつつある.当研究室では,上皮癌を選択的に傷害するCTL株(食道癌患者及び肺癌患者由来HLA-A24拘束性株と大腸癌患者由来HLA-A2拘束性株)をエフェクターとして上皮性癌細胞株cDNAライブラリー(食道癌,膀胱癌,膵癌,肺癌,大腸癌)よりcDNA発現クローニング法により,CTLエピトープをコードする遺伝子を70個以上同定した.これまでに解析した限り,それらの殆どは予想(癌に特異的もしくは選択的にmRNA発現しているという予想)に反し,正常細胞にもmRNA発現している遺伝子群であった.また蛋白レベルでは,正常組織には殆ど発現していないものの,増殖する正常細胞と癌細胞に共同発現している自己抗原が殆どであった.一方,遺伝子の突然変異などは認められなかった.これらの抗原の殆どは,複数のCTLエピトープを有し,そのうち, HLA-クラス1拘束性CTLを癌患者末梢リンパ球(PBMC)から誘導可能なペプチド分子は,1抗原あたり1~4個であった.ペプチドで誘導したCTLは癌細胞株に対しては傷害性を有するものの,正常細胞に対してはたとえ過剰の該当ペプチド存在下でも細胞傷害性を示さなかった.以上の研究成果に基づき,安全性とCTL誘導能の有無を主目的として,HLA-A24もしくは-A26陽性高度進行上皮癌患者を対象に,7つの異なる臨床第1相試験が久留米大学病院にて実施されている.対象癌は食道癌,肺癌,大腸癌,乳癌及び婦人科癌である.以上を要約すると,癌細胞に対する特異免疫の分子機構解明が遺伝子レベルからペプチドレベルにわたり急速に進展している.従って,適切な臨床試験を通して臨床研究を重ね,癌ペプチドワクチン実用可を計る時代を迎えつつあるといえる.本論文では,これらの推移を,主として基礎研究,臨床研究及び将来展望にわけて世界及び日本の現状について概説する.

キーワード
癌抗原, ペプチド, ワクチン, 免疫療法, キラーT細胞

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