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日外会誌. 100(10): 679-682, 1999


特集

ショックを見直す

9.血流分布不均衡性ショック(distributive shock)と血管作動薬

日本医科大学 麻酔科学教室

小川 龍

I.内容要旨
血流分布不均衡性ショックとは,末梢血管抵抗が低下した状態で,血流分布の異常より組織還流が傷害されて発症した臨床症状の総称である.原因としては細菌感染あるいは細菌菌体毒素の血中移行,過剰な炎症性生体反応,過敏性反応,中枢神経の機能不全,薬物中毒などである.治療の目標は循環動態の改善による臓器機能の回復である.このため心血管作動薬を使い分ける必要がある.敗血症性ショックの高動態状態では,ノルエピネフリン,バゾプレッシン,アラミノンなどによる末梢血管抵抗の強化が必要である.敗血症性ショックの低動態状態では,心拍出量維持のためβ-刺激薬(ドパミン,ドブタミン)の静脈内持続投与が中心となり,時に血管拡張薬(ニフェジピン,ニトログリセリン,プロスタグランジン)を併用する.過敏性ショックでは,大量のエピネネフリン(1~5mg)の静脈内投与による心拍再開とこれに続く血圧維持目的でのノルエピネフリンなどの微量持続投与が一般的である.神経性ショックは交感神経遮断にたいしてノルエピネフリンなどの血管収縮薬の微量持続投与により,静脈血の心帰流を回復する.薬物性ショックは末梢血管平滑筋の弛緩や交感神経遮断が循環抑制の機序であり,血管収縮薬(ノルエピネフリン,ヴァゾプレッシン,アラミノンなど)の持続投与が選択される.
ショックは組織還流の減少によって生ずる細胞機能障害がもたらす臨床症状や徴候の総称である.治療の便宜のため,ショックは原因により分類されるのが一般的であった.一方心拍出量の変動様式から見ると,別の分類が可能となる.すでに1970年代Weil1)はショックを循環血液量減少性ショック(hypovolemicshock),心ポンプ機能失調性ショック(cardiogenicshock),血流障害性ショック(obstructive shock),血流分布不均衡性ショック(distributive shock)に分けて病態を論じた.最近ParkerとPapillo2)は本分類を再評価して,病態別ショックの分類法として用いられている.
本稿の表題である血流分布不均衡性ショック(以下,不均衡ショック,と略す)とは,末梢血管抵抗の低下のため,血流分布に異常が生じて組織還流が障害された病態である.本病態の治療では心血管作動薬の使い方が重要な意味を持つ.

キーワード
血流分布不均衡性ショック, 敗血症性ショック, SIRS, 過敏性ショック, 強心薬

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