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日外会誌. 100(7): 443-448, 1999


特集

救急医療における最近の進歩

7.脳低温療法による脳蘇生

日本大学 医学部救急医学

林 成之

I.内容要旨
かつて脳の治療は,壊れた脳組織は修復し得ないのでそこから二次的に発生してくる脳血管透過性亢進に伴う脳浮腫やラジカル活性を抑える目的で低体温療法が行われた歴史がある.しかし,多くの重症患者における脳損傷内の神経細胞は瞬時に死滅する事は無く多くは死にかけた状態で病院に搬送されてくると理解される.これらの風前の灯火にもにた危篤状態に陥った神経細胞の運命を決めるのは,そこから発生する二次的病態ではなく,その回復に必要な酸素や代謝基質,それに脳温環境の安定化が生体防御機構を介して如何に保てるかにかかっていることがとらえられた.さらに,重症脳損傷になると脳内の圧力が応力集中を起こしドーパミンA10神経群から放出されドーパミン酸素と反応してラジカルを産生し,知能や覚醒機能に携わるドーパミンA10神経群の選択的障害を起こす植物症発生機構の存在がみえてきた.その治療対策として,体温を下げる従来の脳保護治療では充分な治療とならず,脳温を正確に3時間以内に34~32℃に下げ,同時に脳の酸素化を図りつつ,A10神経群を破壊するドーパミンの放出を抑える脳低温療法が必要となる.これらの新しい治療概念を生み出した背景には脳内熱貯留に伴う脳温の上昇や血圧・PaO2・頭蓋内圧,脳還流圧を正常に管理しても損傷脳の低酸素化をもたらすmasking brain hypoxiaなどの新たな病態発見がある.しかし,脳低温療法にも成長ホルモンの減少に伴う免疫不全やグルコースから脂質代謝への変換というnegative factorsがあるためそれを管理する技術が必要で,生体侵襲反応を理解した管理法,作用機序,理論を中心に脳低温療法を要点的に紹介した.

キーワード
脳低温療法, 脳低酸素症, 重症頭部外傷, 生体侵襲


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