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日外会誌. 100(7): 430-434, 1999


特集

救急医療における最近の進歩

5.外傷治療のstrategy “damage control surgery"

獨協医科大学越谷病院 救急医療科

池上 敬一

I.内容要旨
大量出血を呈する重度外傷患者では,受傷直後から生理学的安定度は進行性に低下し,これが破綻すればアシドーシス・低体温・血液凝固異常から患者は死に至る.このような患者に対する外傷外科では,生理学的に破綻をきたす以前に止血操作を完了し,生理学的な回復を図った後に,損傷臓器の解剖学的な修復を行う治療戦略が必要となる.これがdamage control surgery(strategy)(以下, DCS)である. DCSの適応は,輸液・輸血に反応しない出血性ショック,大量出血にともなう低体温・進行するアシドーシス・血液凝固異常を呈する患者,重篤な基礎疾患を有する患者などである.DCSの手技は三段階に分けて行われる.第一段階の手術では出血の制御と腹腔内汚染の制御を行うが,損傷臓器の完全な修復は行わない.ガーゼパッキングによる止血や消化管の断端閉鎖といった短時間で終了する手技を行った後,第二段階として集中治療により患者の全身状態の回復をはかる.その目安は体温の上昇,アシドーシスの改善,血液凝固能の回復である.これらが得られれば,第三段階として初回手術では行わなかった損傷臓器の修復を目的に再手術を行う.DCSの合併症は再出血と,腹腔内圧上昇によるabdominal compartment syndrome(以下, ACS)である.ACSの原因は再出血,ガーゼパッキング,消化管の浮腫などであり,その症状は換気障害,尿量減少,心拍出量の減少である.ACSの診断は腹腔内圧が20~25mmHg以上となった場合に考慮する.実際の患者では腹腔内圧の代用として膀胱内圧を測定する.ACSの治療では腹腔を開放し減圧をはかる.

キーワード
外傷外科, damage control surgery, 低体温, 血液凝固異常, abdominal compartment syndrome


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