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日外会誌. 100(5): 347-351, 1999


特集

腹部臓器の虚血-病態の基礎と臨床-

6.虚血性大腸炎の病態

慶應義塾大学 医学部外科

渡邊  昌彦 , 長谷川 博俊 , 北島 政樹

I.内容要旨
虚血性大腸炎とは主幹血管に閉塞所見を伴わず,腸管の虚血によって惹起された可逆性の炎症性病変である.一過性型と狭窄型に分類され従来の壊死型と分けて考えられている.
発症の機序は脈管側と腸管側の因子に分けられる.脈管側因子としては血栓,動脈硬化,血管攣縮などの循環不全,腸管側の因子としては便秘や下痢による内圧や蠕動の亢進などが挙げられ,これらの因子が複雑に絡み合って腸管壁の虚血を来し本症を発症するとされている.
高血圧,心疾患,動脈硬化,糖尿病など基礎疾患をもつ高齢者に好発するが,近年,若年者や再発例の報告もみられるようになった.
急激に発症する腹痛,下痢,下血が本症の主症状である.したがって臨床症状のみで診断されることが多い.非典型例では内視鏡や注腸X線検査で診断される.好発部位は左半結腸で直腸は極めて稀である.一般検査に特徴的な所見はなく,注腸X線検査では発症初期に拇指圧痕像がみられる.内視鏡検査では初期に出血,浮腫,糜爛が認められ,数日後に縦走潰瘍が出現する.組織学的所見は初期に鬱血,腺管壊死,表皮の糜爛がみられるが特徴的ではない.
感染性腸炎や抗生物質起因性出血性腸炎との鑑別が重要である.予後は良好であり,絶食,輸液,二次感染予防,鎮痛剤投与など保存的治療が原則である.出血の持続,強度の狭窄症状,癌の可能性が否定できない場合のみ手術の適応となる.一方,壊死型は緊急手術の適応である.本症が疑われたときは,早期にその病像をとらえて壊死型を疑えば,機を逸することなく対処しなければならない.

キーワード
虚血性腸炎, 上腸間膜動脈血栓症, 拇指圧痕像, 感染性腸炎, 抗生物質起因性出血性腸炎


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