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日外会誌. 100(5): 325-330, 1999


特集

腹部臓器の虚血-病態の基礎と臨床-

2.肝虚血・再灌流障害とサイトカイン

浜松医科大学 第2外科

鈴木 昌八 , 今野 弘之 , 中村 達

I.内容要旨
肝臓は血流の豊富な臓器であり,その機能維持には微小循環単位である肝小葉の類洞組織が重要な役割を担っている.肝臓外科領域では肝移植ばかりでなく,肝外傷や肝切除術での出血制御のため,虚血・再灌流障害は不可避な事象である.
一時的に虚血に陥った臓器の流入血行が急速に再開されるとさらに臓器障害が進展する.この虚血・再灌流障害の一因として,虚血の解除により供給された酸素とヒポキサンチンを基質として産生される活性酸素種が重視されていた.最近の研究では,肝類洞における好中球一血管内皮相互関連作用を中心とする微小循環障害による病態進展が注目されている.これにはサイトカインを含め,種々のメディエータの関与が考えられている.分子生物学の進歩により多くのサイトカインが同定されてきている.TNF-αをはじめとする炎症性サイトカインは細胞接着分子の誘導と好中球一血管内皮細胞相互関連作用による肝微小循環障害に重要な役割を演じている.好中球走化性因子であるケモカインに属するIL-8, CINC, MIP-2, MCP-1は肝組織内ばかりでなく,遠隔臓器における好中球浸潤に関与することが指摘されている.サイトカインは種々の作用を有するため,肝虚血・再灌流障害での働きはまだ不明な点も多いが,複雑なサイトカインネットワークを介して相互に作用を及ぼしている.本病態でのサイトカインの主たる産生源としてクッパー細胞が注目されている.
肝虚血・再灌流障害におけるサイトカイン産生とそのネットワークの制御調節の解析が本病態の解明および最適な治療手段を明らかにするものと考える.

キーワード
肝虚血, 再灌流障害, サイトカイン, 好中球, 血管内皮細胞


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