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日外会誌. 99(12): 825-830, 1998


特集

開心術における低侵襲的アプローチ(MICS)の現況と展望

5.右旁胸骨切開によるMICSの適応と限界

大阪大学 医学部第1外科

澤 芳樹 , 松田 暉

I.内容要旨
近年の外科領域における,内視鏡下手術の拡がりとともに,開心術においても低侵襲心臓手術(MICS)が盛んに行われるようになってきた.弁膜症や先天性心疾患の根治術においては,人工心肺が不可欠であり,低侵襲にも限界があるが,従来標準術式として取り入れられてきた胸骨正中切開を回避することには,手術侵襲の軽減や美容上の問題も含め意義があると考えられる.MICSには,胸骨切開をせずに,右旁胸骨切開法,胸骨部分切開法や肋間開胸で行う方法が行われている.我々は,1997年よりこれまで61例の弁膜症または先天性心疾患に対しMICS手術を施行し,良好な成績を得た.特に僧帽弁疾患および成人先天性心疾患において,右旁胸骨切開群,下部胸骨部分切開群及び従来の胸骨正中切開群で有用性を比較検討したところ,体外循環時間が150分未満の右旁胸骨切開群または下部胸骨部分切開群で,胸骨正中切開群に比し,術後出血量が有意に少なかった.体外循環時間が150分未満の右旁胸骨切開を用いた症例において,体外循環離脱時の血中IL-8値が,他の2群に比し有意に低値であった.このうち右旁胸骨切開法は,体外循環下に胸骨切開を完全に回避する術式として,胸骨部分切開法より低侵襲ではないかと考えられるが,手術野に制限があり,弁や大動脈の位置によってはアプローチ困難な症例があり,CTなどを用いた術前の画像的評価による,至適アプローチの選択が重要であると考えられた.MICSによる開心術は,体外循環の比較的短いsimple caseでは生体への侵襲が軽減されると考えられ,今後手術器具の改良により,MICSの有用性および適応がさらに広がる可能性があると考えられた.

キーワード
MICS, 開心術, 右旁胸骨切開, 胸骨部分切開法, 低侵襲手術


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