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日外会誌. 99(7): 430-435, 1998


特集

大腸癌:浸潤・転移の基礎と臨床

7.肝局所免疫能を応用した大腸癌肝転移に対する集学的治療

近畿大学 医学部第1外科

奥野 清隆 , 安富 正幸

I.内容要旨
肝は類洞内にKupffer細胞(肝組織マクロファージ)やpit細胞(肝Natural killer細胞)などを有する免疫担当臓器であることが知られていたが,近年ではT細胞のなかでも系統発生学的に古くから存在するプリミティブ(primitive)T細胞の分化,増殖(胸腺外T細胞分化)を司る中心的な臓器としてその意義がさらに注目を浴びている.われわれは肝臓のこのような特性を利用してT細胞増殖因子であるInterleukin-2(IL-2)を中心とした免疫化学肝動注療法を肝転移治療に応用して良好な治療成績を得ている.切除不能肝転移に対しては導入療法としてIL-2(70万単位)と5-FU(250mg)を連日, MMC(4mg)を週1回投与する肝動注を3~4週施行ののち,IL-2(210万単位),5-FU(250mg), MMC(4mg)を週1回投与する維持療法を続けた.25例のpilot studyでは19例に効果(CR 6例, PR13例)が認められた(奏効率76%)ため,多施設による無作為化試験(前期II相試験)を実施した.化学療法(MMC,5-FU)単独群,大量間歇 IL-2併用群,少量持続IL-2併用群の3群設定にて計42例の集積を得た中間解析では化学療法群の奏効率が40%であるのに対し,大量間歇 IL-2併用群で60%,少量持続IL-2併用群78%の奏効率を得てIL-2併用効果が強く示唆されたため現在さらに大規模な無作為化試験(後期II相試験)が開始されている.切除可能な大腸癌肝転移には肝切除を施行し,そののち残肝再発予防のためにIL-2(140~210万単位),5-FU(250mg),MMC(2~4mg)の肝動注を週1回で6か月間投与した.18例のpilot studyでは最長生存は約8年に達し,5年生存率は75%と良好な成績を得ている.再発は6例に認められた(肺転移3例,骨盤内再発2例,脳転移1例)ものの残肝再発を来した症例はなく,このことが生存期間延長に寄与していると考えられた.このようにIL-2を中心とした免疫化学肝動注は肝局所免疫能の活性化を目指した新しい補助療法であり,肝切除と組み合わせた集学的治療によって大腸癌肝転移を制御することが可能になると考えられる.

キーワード
Interleukin-2 (IL-2), 肝局所免疫, 肝動注療法, 大腸癌肝転移

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