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日外会誌. 99(7): 425-429, 1998


特集

大腸癌:浸潤・転移の基礎と臨床

6.大腸癌の浸潤,転移とサイトカイン

熊本大学 医学部第2外科

江上 寛 , 蒲原 英伸 , 箕田 誠司 , 小川 道雄

I.内容要旨
近年の免疫学あるいは分子生物学の進歩にともない、細胞が産生するサイトカインの詳細な作用の解析が可能となり,これらサイトカインの多くが癌の浸潤・転移機構に深く関与していることが明らかとなってきた.癌の転移が成立するためには,1)細胞増殖,2)血管新生,3)細胞浸潤,4)血管内皮細胞との細胞接着などの複数のステップが必要である.サイトカインは浸潤,転移機構の各ステップにメディエーターとして重要な役割を担っている.
大腸癌において,epidermal growth factor(EGF),transforming growth factor α(TGFα), interleukin-1α(IL-1α)は細胞増殖に深く関与し, fibroblast growthfactor(FGF)やvascular endothelial growth factor(VEGF), platelet-derived endothelial cell growth factor(PD-ECGF), interleukin-8(IL-8)は血管新生因子として作用する.また,EGF, transforming growthfactor-β1(TGF-β1), IL-1β, tumor necrosis factorα(TNFα)はプロテアーゼの産生を亢進し, autocrinemotility factor, scatter factor(HGF), interleukin-6(IL-6)は細胞遊走能を増強することによって癌細胞の浸潤能を亢進させる.さらに,IL-1β, TNFαは癌細胞と血管内皮細胞との接着能を亢進させることによって浸潤,転移機構に関与している.癌細胞は複数のサイトカインを直接的に産生しており,大腸癌細胞株あるいは癌組織においてTNF, IL-1β, IL-8, leukemia inhibitorv factor(LIF)などのサイトカインmRNAの発現が認められ,同時に癌サイトカインのレセプターも認められる.癌細胞は間質細胞との相互作用により複雑なサイトカインネットワークを形成して浸潤,転移に適した環境を作り上げてくるものと考えられる.
本稿ではこれら大腸癌の浸潤・転移機構の各ステップとサイトカインの関連について述べた.

キーワード
大腸癌, サイトカイン, 浸潤・転移


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