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日外会誌. 99(7): 402-408, 1998


特集

大腸癌:浸潤・転移の基礎と臨床

2.大腸癌の浸潤,転移における E-cadherin
細胞接着機構の役割

1) 国立がんセンター研究所 病理部
2) 浜松医科大学 第2外科

丸山 敬二1)2) , 落合 淳志1) , 中村 達2) , 馬場 正三2) , 広橋 説雄1)

I.内容要旨
一般に上皮細胞間接着分子E-cadherinの発現および機能の低下はがんの浸潤性と相関していることから,cadherin分子は“がん浸潤抑制機構”として働いていると考えられている.大腸癌では,従来ヒトがん細胞において知られていたcadherinとその細胞内結合分子cateninの構造異常による機能不全の報告はない.大腸癌の主体となる分化型がんはその浸潤先進部においてしばしばがん細胞間の解離が起こっている.しかしその転移巣ではがん細胞間接着は回復し再び明瞭な腺管構造を形成することから,大腸癌の転移成立にはE-cadherin-catenin系細胞接着機構の一過性の機能不全が関与していると考えられる.われわれはこれまでに,c-erbB-2やEGF受容体など増殖因子受容体によるβ-cateninのチロシンリン酸化を介したcadherin細胞接着系機能不全の機構を報告してきたが,実際の大腸癌手術材料を病理組織学的に検討しても,がん浸潤部における細胞間接着の解離と増殖因子受容体の活性化が同時に観察される.さらにE-cadherinの裏打ち蛋白であるB-cateninは細胞増殖系と相互作用するだけでなく,APCがん抑制遺伝子産物とも相互作用し,細胞接着系の構成因子が同時に細胞増殖ならびに増殖制御系にも関わっていることが示されている.このようにE-cadherin細胞接着機構の異常はがんの浸潤,転移のみならず発生,増殖などいろいろな段階で重要な役割を果たしていると思われる.

キーワード
大腸癌, E-cadherin-catenin, チロシンリン酸化, 浸潤転移, APC


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