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日外会誌. 99(6): 373-378, 1998


特集

大腸癌発生予防の基礎と臨床

8.遺伝子調節による予防

1) 京都府立医科大学 公衆衛生学
2) 京都府立医科大学 第2外科

中野 且敬1)2) , 山岸 久一2) , 岡 隆宏2) , 酒井 敏行1)

I.内容要旨
p53遺伝子が発癌を抑制する重要なメカニズムのひとつに,p53タンパクがWAF1遺伝子の転写を活性化することで,細胞周期のG1期停止を誘導する経路が知られている.従って,p53の失活を伴う癌の場合,その下流で働いているWAF1を薬剤などで活性化できれば,p53の増殖抑制機能を代償できる可能性があり,癌予防に応用できると考えられる.このような特定の温存された遺伝子にターゲットをしぼった方法を,我々は,遺伝子調節化学予防と命名し,基礎的研究を進めてきた.今回,大腸癌においてこのモデルを作製するため,酪酸を使って検討した.p53の欠失したヒト大腸癌細胞株WiDrを用い,酪酸による増殖抑制効果を調べたところ,酪酸は,濃度依存性に細胞増殖を抑制し,G1期停止作用をきたした.さらに酪酸は,WAF1をプロモーターレベルで活性化した.詳細な解析により,同プロモーター内の特異的なSp1部位をその活性部位として同定することに成功した.ゲルシフトアッセイによりSp1,Sp3が特異的に結合することも確認された.ここで更に,酪酸のデアセチラーゼ阻害能に注目し,より特異的なデアセチラーゼ阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)で処理したところ,興味深いことに,全く同じSp1部位を介してWAF1を活性化した.以上より,アセチル化が,このSp1部位を介して特異的にWAF1を活性化する可能性が示された.以上の結果から,大腸癌に対する酪酸の増殖抑制効果は,特異的なSp1部位を介したWAF1遺伝子プロモーターの活性化により,細胞周期のG1期において増殖停止を誘導したことによるものと考えられた.この活性化のメカニズムはp53タンパクに非依存的であり,我々の提示する遺伝子調節化学予防のモデルといえる.

キーワード
p53, WAF1, cell cycle (細胞周期), gene-regulating chemoprevention (遺伝子調節化学予防), butyrate (酪酸)

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