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日外会誌. 99(6): 351-356, 1998


特集

大腸癌発生予防の基礎と臨床

4.大腸癌の組織発生と形態発生
-その歴史的展望-

東京大学 医学部腫瘍外科

武藤 徹一郎

I.内容要旨
過去20年の間に,大腸癌組識発生の概念は大きな変遷をとげてきた.その変遷は以下の4つの時期に分けられる.すなわち,1)手術材料に基づいた時期,2)内視鏡的摘除材料に基づいた時期,3)非隆起性病変に基づいた時期,4)分子生物学に基づいた時期,の4時期である.
初めの時期には大きな腺腫が前癌病変として最も重要と考えられていた.腺腫を母地に癌が発生し,大きな腺腫ほど癌化率が高いという概念はadenoma-caneinoma sequenecと呼ばれた.次の時期には小さくて無茎性の病変が前癌病変として重要であることが明かになった.大腸腫瘍の自然史の研究からも,隆起型病変から潰瘍型病変への変化が比較的短期間の間に起こりうることが明かにされた.非隆起型病変(non-polypoid lesion)の発見は,大腸癌組識発生の概念に新しい展開をもたらした.これらの病変は小さくても隆起型病変より癌化のポテンシアルが高いと考えられる.さらにK -rasの遺伝子異常は隆起型病変と異なり,非隆起型とくに陥凹型病変にはほとんど認められない.この事実は,大腸癌発生の経路は従来考えられてきたのとは異なり,少なくとも2つのルートがあることを示唆している.いわゆるde novo癌と呼ばれる病変の原因となる遺伝子異常の存在は確認されてはいない.既知のadenoma-carcinoma sequenceに必要な遺伝子異常が次々と連続して起これば,正常粘膜から直接に癌が発生したように見えるかも知れないが,これは厳密な意味でのde novo癌ではない.その責任遺伝子が同定されるまでは,いわゆるde novo癌と考えられる腺腫成分の混在しない小さな癌はde novo型癌と呼ぶべきであろう.

キーワード
大腸癌, 大腸癌組織発生, adenoma-carcinoma sequence, de novo 癌, 表面型腫瘍


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