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日外会誌. 99(6): 345-350, 1998


特集

大腸癌発生予防の基礎と臨床

3.発癌高危険群の分子生物学的評価法

大阪大学 医学部第2外科

冨田 尚裕 , 大植 雅之 , 関本 貢嗣 , 川端 雄一 , 森田 俊治 , 辻江 正樹 , 門田 守人

I.内容要旨
大腸の発癌高危険群には,大きく二つのentityが含まれる.一つは,遺伝性に大腸癌を好発する遺伝性大腸癌であり,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)と遺伝性非ポリポーシス性大腸癌(hereditary nonpolyposis colorectal cancer)がその代表的な疾患である.この二者の他にTurcot症候群,Muir-Torre症候群などがあり,これらはいずれも近年の研究によりFAPあるいはHNPCCの亜型であることが明らかになった.その他,Peutz-Jeghers症候群については最近,原因遺伝子として19p上のLKB1遺伝子が同定され,また若年性ポリポーシスについてはSMAD4/DPC4遺伝子の関与が報告された.これらの遺伝性大腸癌に関しては,発端者において原因遺伝子を確認同定した後,家系内の補因者診断が可能であり,これによって大腸癌の高リスクの個人を同定することができる.頻度的にも多く,臨床上特に重要なHNPCC症例のスクリーニングに関しては現行の診断基準だけでは不十分であり,DNA複製エラー(DNA replication error:RER)の解析が重要である.
発癌素因に関するもう一つのentityは,環境側の発癌因子に対する個体側の感受性因子であり,その代表的なものが種々の化学物質の発癌活性化作用および解毒作用を有する薬物代謝酵素のpolymorphismである.近年,酵素活性とその酵素をコードする遺伝子の多型(genetic polymorphism)の関連が明らかとなり,種々の薬物代謝酵素のgenetic polymorphismと発癌リスクとの関連が検討されているが,大腸癌においてはN-acetyltransferase(NAT)遺伝子のslow acetylator genotypeおよびglutathione S-transferase(GST)Ml遺伝子のnull genotypeと発癌リスクとの関連が示唆されている.
外科的治療の奏功率の高い大腸癌の治療戦略においては,早期発見,治療につながる発癌高危険群の同定が重要であり,今後の研究の進展および臨床への還元が望まれるところである.

キーワード
大腸癌, RER, HNPCC, genetic polymorphism, 薬物代謝酵素


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