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日外会誌. 99(3): 187-192, 1998


特集

外科栄養の進歩

9.担癌生体と栄養

札幌医科大学 外科学第1

桂巻 正 , 平田 公一 , 磯部 将人

I.内容要旨
担癌生体と栄養に関する最近の知見について述べた.担癌患者における栄養療法の目的は,(1)食欲低下からくる食物摂取低下,(2)低栄養から生じる悪液質の改善,(3)化学療法,放射線療法施行時における栄養補助,(4)biochemical modulationとしての栄養,などに大別できる.担癌生体における蛋白代謝動態は腫瘍の増殖に伴う大量の窒素源の消費とその供給源として宿主の筋蛋白崩壊であり,悪液質改善としてグルタミン投与が有効であることが報告されている.また,栄養障害にサイトカインの関与が示唆されており,IL-1β,TNFα, IL-6は異化亢進作用を持ち筋肉,脂肪組織に作用して筋蛋白および脂肪を分解し,担癌患者の栄養障害,悪液質をもたらす可能性があるほか,食欲低下もIL-1βが担癌患者における食欲低下を惹起することが報告されている.担癌患者の食欲亢進剤としてprogestogensの有効性,悪液質に陥った担癌生体に対する栄養治療としてeicosapentaenoic acid投与の有効性も注目されている.癌腫自体への治療手段としての栄養療法としてはアミノ酸含量や組成を修飾することで,悪性腫瘍の発癌,増殖,転移,再発機構をコントロールするアミノ酸インバランス療法があるが,正常細胞にも重篤な代謝異常を引き起こす可能性があり,臨床への導入は難しいとされている.メチオニン欠如アミノ酸(AO-90)療法は進行・再発胃癌患者における5-FU, MMCによる化学療法の効果増強に寄与したと報告されている.
担癌生体における栄養に関する研究はサイトカインの関与,新しい栄養剤,薬剤の開発などその発展はめざましいが,いずれにしても患者のQOLを損なわぬこと,もしくは改善することが重要で,栄養学的補助によるQOLの維持は癌患者への医療という観点から今後,非常に重要な検討課題であることを指摘しておきたい.

キーワード
癌, 栄養, 悪液質, 食欲低下, アミノ酸インバランス療法

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