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日外会誌. 99(3): 182-186, 1998


特集

外科的栄養の進歩

8.術後感染症と栄養

帝京大学医学部救命救急センター 

長谷部 正晴 , 小林 国男

I.内容要旨
術前,術後の低栄養は免疫能の低下を介して術後感染症の危険因子となる.低栄養の原因として,外科疾患の性質だけでなく,潜在する臓器・代謝障害も無視できない.これらのすべてが術後感染症の危険因子であり,術後感染症の合併によってさらに増悪する.
したがって,まず術後感染症の予防を目的に,術前,術後の低栄養を改善するための栄養管理に万全を尽くすべきである.術前の栄養管理では,時間の余裕があれば,栄養投与に対する生体の反応,例えば血清アルブミン値の上昇などを確認したうえで手術に臨むとよい.術後の栄養管理においては,手術侵襲が大きい場合には,できるだけ早期から栄養投与を行うことが術後感染症発生率の減少につながる.術後には高血糖を招かぬよう留意すべきである.また最近は,経腸栄養が免疫能の改善効果という面からも脚光を浴びている.術前から低栄養があり,経口的に十分なエネルギー摂取ができない患者には,腸管機能が保持されている限り経腸栄養による術前,術後の栄養管理を行うべきである.
栄養管理を行ううえで特別の配慮が必要となる術後感染症はすべて重症である.手術部位に発生する感染症であれば,腹膜炎,縦隔炎,膿胸,などである.手術部位以外のものでは,肺炎が代表的である.いずれも,しばしば敗血症を合併し,潜在する臓器・代謝障害を増悪させたり,あらたに臓器障害を発生させる.したがって,術後感染症に対する治療としての栄養管理では,敗血症と臓器障害の病態対策が課題になる.静脈栄養主体の場合は,敗血症に対しては,グルコースと,分岐鎖アミノ酸含量の多いアミノ酸製剤を用いる.肝障害では,血糖値と血清アンモニア値をモニタリングしながら,グルコースとアミノ酸の投与量を調節する.腎不全では,透析を活用しながらアミノ酸を投与して蛋白異化の防止に努める.また,重症例においても積極的に経腸栄養を応用するべきであろう.

キーワード
術後感染症, 低栄養, 栄養管理, 分岐鎖アミノ酸, 経腸栄養


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