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日外会誌. 99(1): 8-13, 1998


特集

広範囲熱傷治療の現況

3.広範囲熱傷初期の体液・循環変動とその管理

川崎医科大学 救急医学

鈴木 幸一郎 , 河野 匡彦 , 青木 光広 , 小林 良三 , 藤井 千穂 , 小濱 啓次

I.内容要旨
広範囲熱傷初期には,熱傷特有の体液変動と循環異常が出現する.熱傷創部はもちろん健常部組織にも著しい浮腫が出現するが,これは主として血管透過性亢進による血漿成分の漏出によるもので,その結果,循環血漿量の減少とヘマトクリット値の上昇が見られる.一方,心拍出量はこのような体液変動に先行して減少し,受傷後24~48時間前後で正常に回復し以後は高値を示すようになる.この低心拍出量を示す時期を熱傷ショック期と呼び,主な原因は循環血漿量滅少によるhypovolemic shockと考えられている.従って,対策の主眼は循環血漿量の回復であり,種々の輸液公式が用いられる.わが国では,乳酸加リンゲル液を用いるParkland formulaを使用する施設が多い.
ショックを如何に早く離脱するかが重要であり,そのために輸液療法を中心とした循環管理が必要となる.特に,輸液の不足は乏尿から急性腎不全,ショックの遷延化を招き,輸液の過剰は著しい浮腫と呼吸障害を引き起こすので,他の外傷患者以上に厳密な管理が行われなければならない.輸液量の調節には種々の指標が用いられるが,なかでも時間尿量が最も有用であり,尿量0.5~1.0ml/kg/hを目標に輸液速度を頻回に調整する.また,広範囲III度熱傷,高齢者,ショックの強い例では心臓機能のモニターと各種心血管作動薬が使用される.
熱傷の病態には,古典的な神経・体液性因子に加え,全身性炎症反応が関与するというのが最近の考え方である.抗酸化剤であるビタミンC大量投与が血管透過性亢進を抑制することが明らかにされ,わが国で臨床応用されつつある.また,熱傷初期の高浸透圧状態を補正することを主眼とした全く新しい考え方の輸液療法も試みられつつある.このような初期輸液に関する最近のトピックスについても紹介した.

キーワード
熱傷ショック(期), 輸液公式, 血管透過性, コロイド, ビタミンC


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