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日外会誌. 98(12): 1001-1007, 1997


特集

最近の新生児外科

5.横隔膜ヘルニアの治療方針とその成績

秋田大学 医学部小児外科

加藤 哲夫 , 吉野 裕顕 , 蛇口 達造 , 水野 大

I.内容要旨
生後24時間未満発症の横隔膜ヘルニアの救命率は現在なお40~60%と低率で,高度肺低形成が死因のほぼ3分の2を占めている.この傾向は出生前診断例でさらに顕著となり,その死亡率は実に80~90%に達し,死因の70~80%が高度肺低形成という.
今回,自験37例の治療方針,治療成績を紹介するとともに,予後判定指標および肺重量・体重比(L/B比)について検討したので報告する.
治療方針はまず換気療法(CV, HFOV),薬物療法(筋弛緩,鎮痛鎮静,血管拡張,強心の各薬剤)で対処し,低酸素血症が改善しないときは根治手術に踏み切るか(前期),ECMO管理に切り換えた(後期).低酸素症が改善しなかったのは11例で,前期の9例中1例は生存したが残りの8例が術後に死亡,後期の3例はECMO管理を施行したが2例を失った.結局,乳児期死亡の1例を加えると37例中11例が死亡し,救命率は70%であった.
予後を判定すべくPH< 7,PaO2< 60, PaCO2>60,AaDO2≧600,OI≧40を危険域として設定し検討したところ,来院時,根治手術直前を通じてOI≧40が感度,特異性ともに最も優れた指標でありECMO適応基準の目安にもなり得ることが明らかとなった.
死亡11例中,乳児期死亡の1例を除く10例の死因はすべて高度肺低形成であった.すなわちL/B比は平均0.49±0.18%と異常低値であり,生存可能域と思われる1%には遠く及ばなかった.検索し得た3例の肺組織像では末梢気腔および肺動脈の著明な未熟性を証明している.
本症で出生後に救命可能なのはL/B比がたかだか1%までと考えられ,1%未満では生命維持に必要な肺重量,肺組織を具備しない高度肺低形成であることから,治療には反応し得ない.
本症の治療成績の向上に大きな障碍として立ち塞がる高度肺低形成を克服し得る唯一の手段は胎児治療であり,胎児治療の早期確立が切に望まれる.

キーワード
横隔膜ヘルニア, oxygenation index, 肺低形成, 肺重量・体重比, 胎児治療

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