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日外会誌. 98(8): 697-699, 1997


その他

医学研究の重要性
-下肢動脈血行再建の病態をめぐって-

琉球大学 医学部外科学第2講座

草場 昭

I.内容要旨
下肢動脈血行再建術を成功させるために,術後早期閉塞ならびに晩期閉塞の病態を解明し,その制御対策について検索した.術後早期における再建動脈の予後は,再建動脈の電磁血流計により記録した流速波形と極めてよく相関した.流速波形を0,I,II, III, IV型に分類した場合,0,I型波形の症例はよく開存し,III,IV型波形の症例は何れも早期閉塞を来した.II型波形の症例では早期閉塞は起らないが晩期閉塞を起しやすい.流速波形が再建動脈の予後とよく相関する理論的根拠は,血管内流速分布特性に在り,0,I型波形の流れでは壁面に沿っての流速変化が大きいのに対して,III, IV型波形の流れでは流速変化が非常に小さい.壁面に沿う流速変化の大きさは,流速勾配の積分値として壁面勇断の変化量として算定できる.再建動脈の流速波形ならびに壁面勇断力変化量を指標として血行再建動脈の成,否判定を行えば,術後早期閉塞は確実に回避できる.
血行再建術後の晩期閉塞の主な原因は,移植グラフトの内膜肥厚と吻合部内膜肥厚である.この内膜肥厚は,末梢run offの悪いII型波形流れの症例に発生しやすい.実験的検索の結果では,グラフトの内膜肥厚は,平滑筋芽細胞の能動的増殖によって起り,6カ月後には300~500μmに肥厚した.肥厚内膜の深層では6カ月後でもBrdUの取り込みが強く,細胞増殖が続いていることが示唆された.一方吻合部の内膜肥厚は線維芽細胞の増殖と膠原線維の増生によって形成された.また6カ月後でも肥厚内膜の深層でBrdUの強い取り込みがみられ,細胞増殖と内膜肥厚が続いていると考えられた.晩期閉塞を制御するためには,グラフトにおける平滑筋芽細胞の増殖と吻合部における線維芽細胞の増殖を同時に抑制する方法を見出す必要があることが示唆された.

キーワード
動脈血行再建, 術後早期閉塞, 術後晩期閉塞, 流体力学的特性, 移植片内膜肥厚


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