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日外会誌. 98(8): 680-684, 1997


特集

慢性肝炎・肝硬変合併疾患の外科

Ⅲ.各論的事項(慢性肝炎)
4.肝硬変合併下部消化管疾患の外科

名古屋大学 医学部第2外科

野浪 敏明 , 平井 敦 , 高木 弘

I.内容要旨
肝硬変症を合併した大腸癌に対する外科的切除の肝機能上の適応はclinical stage I, II,またはChild-Pugh Grade Bまで, KICGでは0.06以上が妥当である.
肝癌を合併している場合,大腸癌手術の根治性が得られる場合には,肝機能,肝癌の進展の上で切除可能例は肝切除の適応となる.肝癌が切除不能の場合や,大腸癌手術の根治性が低い場合には,肝癌の治療法は他治療を選択する.肝切除の治療時期は,できる限り二期分割手術とする.
易出血性の食道静脈瘤を合併している場合には,術前に内視鏡的結紮療法(EVL)や硬化療法(EIS)によって静脈瘤を軽減または消退させてから大腸癌手術を行う.
術前には,十分な肝機能評価を行っておく.colon pretarationと栄養管理を,肝硬変合併例ではとくに徹底して行う.肝硬変患者では耐糖能が低下していることも多く,必要な場合にはInsulinを投与する.予想出血量が1000mlを超えるような症例では,術前に自己血を準備しておく.
肝硬変を合併している時は,郭清は最大D1~D2にとどめ,肝障害のより高度な場合には郭清を行わない.手術時には,出血傾向や副血行路などによる出血に特に注意を払う必要がある.
術後には,hypovolemiaにならないよう注意し,肝機能保護,肝血流維持に心がけ,肝障害が高度な症例では,低濃度のdobutamine又はdopamineを投与する.血液凝固能低下例には,術中から術後にかけて新鮮凍結血漿を,血小板減少例では血小板輸血を考慮する.
肝硬変合併例では,肝障害の程度を十分に把握して大腸癌の手術術式を決定し,併存する肝癌や食道静脈瘤に対する治療法や治療時期も考慮して,大腸癌の外科治療に当たることが重要である.

キーワード
肝硬変, 大腸癌, 直腸癌, 肝機能, 食道静脈瘤

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