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日外会誌. 98(7): 610-614, 1997


特集

膵癌治療の変遷

6.膵癌におけるリンパ節郭清の変遷

金沢大学 医学部第2外科

宮崎 逸夫 , 萱原 正都 , 永川 宅和

I.内容要旨
1912年にKauschが膨大部癌に対して膵頭十二指腸切除を施行した.Whippleは1935年に現在のほぼ原型である膵頭十二指腸切除を行い,1937年には膵頭部癌に対してBrunschwigが膵頭十二指腸切除を施行した. この時より,膵癌に対する膵頭十二指腸切除が行われるようになったが, リンパ節郭清の概念はなかった.1960年代までは現在でいう非郭清の膵頭十二指腸切除が行われていたが,1973年のFortnerによるregional pancreatectomyが提唱されて以来, リンパ節郭清の概念が取りいられるようになった.本邦でも時を同じくして,膵癌の根治性向上を目指した論議がなされ,拡大手術が導入されるようになった.1980年代は大動脈周囲リンパ節を含めた広範囲リンパ節郭清に加え, 膵全摘を多くの施設で行っていたが, リンパ節転移状況から膵頭部癌では膵頭切除で十分対処できることが明らかとなった. リンパ節郭清は膵癌取扱い規約でいうD2郭清を行い,神経叢切除も伴うため術後のqualityof life (QOL) が重要視されるようになってきた.TraversoとLongmireが1978年に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(pylorus preserving pancreatoduodenectomy: PPPD)を報告して以来,欧米では膵頭部癌に対してもPPPDの適応の拡大がなされるようになった.最近では本邦でも胃周囲リンパ節転移の頻度や術後のQOLの検討から,PPPDを膵頭部癌の基本術式とする施設もみられるようになった.本邦では圧郭清の必要性が強調され,小膵癌でも広範なリンパ節郭清の必要性が唱えられている.一方,他の癌領域では縮小手術の適応が検討されているが,膵癌において縮小したリンパ節郭清術が合理的かどうかは今後の検討を要する.膵体尾部癌では一部散見されるが系統的なリンパ節郭清の報告例が少なく,合理的なリンパ節郭清についてはさらに症例の蓄積が必要と思われる.

キーワード
膵頭部癌, 膵頭十二指腸切除術, 大動脈周囲リンパ節, 拡大手術

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