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日外会誌. 98(7): 604-609, 1997


特集

膵癌治療の変遷

5.切除標本から見た進展度診断

東京女子医科大学 消化器病センター外科

羽鳥 隆 , 高崎 健 , 今泉 俊秀 , 中迫 利明 , 原田 信比古 , 福田 晃

I.内容要旨
切除標本からみた膵頭部癌の進展度診断について検討した.1995年までの膵頭部浸潤性膵管癌切除例316例について主な膵外進展についてみると,膵前方被膜浸潤(s)陽性49%,膵後方浸潤(rp)陽性77%,門脈系静脈浸潤(pv)陽性38%,膵外神経叢浸潤(pl)陽性53%,リンパ節転移(n)陽性79%と,高度な進展を示した.また,拡大手術(第2群以上のリンパ節郭清,後腹膜神経叢郭清,門脈系静脈合併切除を基本)では根治度AまたはBが48%であったが,標準手術では73%が根治度Cに終わっており,局所を制御するには拡大手術を適応せざるをえない.しかし,一方では拡大手術249例中52%は根治度Cであり,その理由の88%は膵周囲剥離面(ew)における癌浸潤陽性であった.また,拡大手術例の根治度別の累積生存率でも根治度A,Bの5生率が28%,14%であったのに対し,根治度Cでは5生例はなく3生率2%にすぎなかったことから,根治度B以上がえられる進展度の症例に拡大手術の意義が認められると考えられた.そこで,外科的切除に最も関わる組織学的進展の内,膵後方浸潤(RP),門脈または上腸間膜静脈浸潤(PV),主要動脈浸潤(A)の3因子についてCTと血管造影から判定基準を設定し術前進展度診断を行い,1989年以降prospectiveに検討した.各々の正診率は80%前後であり,これら3因子より設定した臨床病期(CS)と根治度,術後累積生存率の関係をみると,CS I期, II期, III期では根治度B以上が各々,94%,67%,43%であったが,CS IV期では77%が根治度Cであった.また, CSI期,II期の3生率が53%,35%でCS III期でも2生率8%がえられていたが,CS IV期では2生例もなく1生率19%にすぎなかった.したがって,画像診断基準による進展度診断でCS IV期と判定されたものは拡大手術の適応外であり,CS III期以下の進展度症例に拡大手術を行うことで,適確な進展度診断に基づいた合理的な外科治療が可能になると考えられた.

キーワード
膵癌, 膵頭部癌, 拡大手術, 進展度診断, 臨床病期


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