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日外会誌. 98(4): 449-456, 1997


特集

炎症性腸疾患の治療における最近の進歩

9.潰瘍性大腸炎に対するW型回腸嚢肛門吻合術

新潟大学 医学部第1外科

酒井 靖夫 , 畠山 勝義 , 島村 公年 , 神田 達夫 , 瀧井 康公 , 岡本 春彦 , 須田 武保

I.内容要旨
潰瘍性大腸炎に対して根治性と自然肛門温存を兼ね備えた回腸嚢肛門吻合術IPAAが,安全性や良好なQOLの点から標準術式となっているが,高度の外科技術が要求され,術後排便機能もなお改善の余地がある.
IPAAは近位直腸と結腸を全摘し,遠位直腸粘膜を切除した後,回腸で嚢を作製して,肛門に吻合するもので,いくつかの回腸嚢の形状がある.W型は,嚢と肛門を側端吻合することにより,端々吻合のS型にみられたカテーテルを必要とする不完全排便をなくし,かつ大きな容量を得て排便回数を減少させようとするものである.
著者らは1984年よりW型回腸嚢を用いたIPAAを採用しているが,回腸嚢の最大耐容量および回腸嚢拡大率と一日排便回数との間に逆相関が認められ,容量とともにW型嚢における横幅の広さも重要な要素と考えている.本術式のポイントは安全性,直腸粘膜残存による再燃・癌化の危険防止,大きな容量の嚢による良好な排便機能などの観点から,1)3期分割手術,2)W型回腸嚢,3)直腸粘膜全切除,手縫いの回腸嚢肛門吻合,4)筋筒はshort cuff,5)一時的回腸瘻造設である.
自験58例の成績では死亡例や重篤な合併症はなく,一日排便回数は平均4.9回で,53%の症例でsoilingおよび夜間排便もみられなかった.排便機能の患者評価では73%が良好で,89%が術前内科治療時と同等以上のQOLを維持していた.
回腸嚢肛門管吻合術IACAは粘膜切除をせず,嚢と肛門管上縁で器械吻合するstapled IPAAであり,回腸嚢肛門吻合術IAAより手技的に容易で,排便機能が優れており,一時的回腸痩が不要である点で有用とされる.しかし,IACAとIAAは異なる術式と考えるべきであり,両者の適応の使い分けは直腸粘膜の残存による再燃および癌化の要因と頻度,術後排便機能との兼ね合いで決められ,なお長期経過後の検討を要すると考えられる.

キーワード
潰瘍性大腸炎, W型回腸嚢肛門吻合術 , restorative proctocolectomy, Ileal pouch-anal anastomosis(IPAA), 排便機能


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