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日外会誌. 98(3): 380-384, 1997


特集

大腸癌-診断と治療の進歩

6.腹腔鏡下手術の現況と問題点

帝京大学 医学部附属溝口病院外科

宮島 伸宜 , 山川 達郎

I.内容要旨
大腸癌に対する腹腔鏡下手術は現在多くの施設で行われるようになったが,適応や手技についてはまだ一定しておらず,十分に普及したとはいいがたいのが現状である.これは,リンパ節郭清が通常の手術と同様に行われているか否かが明らかではないためである.早期癌に対するD1郭清は腸間膜の剥離のみで良いため比較的簡単に行うことができるが,D2およびD3郭清では腫瘍血管の根部を露出する必要があるため, ultrasonic aspiratorなどの器具が有用となる.われわれがこれまでに経験した大腸癌に対する腹腔鏡下手術を通常の開腹手術と比較すると,手術時間は腹腔鏡下手術で開腹手術よりも数十分長くなったが,術後の鎮痛剤使用回数は腹腔鏡下手術の方が少なく,術後の歩行時期,経鼻胃管の抜去時期ともに腹腔鏡下手術の方が明らかに短かった.したがって,腹腔鏡下手術はminimally invasive surgeryとしての役割を十分に果たしていると考えられる.また,摘出リンパ節の個数はD1, D2, D3のいずれの郭清度においても通常の開腹手術と差がなかった.大腸癌に対して腹腔鏡下手術を採用しても根治性は損なわれないものと考えられた.術中,術後の合併症は進行癌に巻き込まれていた尿管を損傷した1例以外はいずれも軽微なもので,術中の対処や経過観察で軽快した.再発は進行癌症例の1例のみであり,腹腔鏡下手術は進行大腸癌症例に対しても十分に適応になり得ると考えられた.今後は,手術適応,手術方法,手術器具などについてのconsensusを得るように努力する必要がある.腹腔鏡下手術は一部のspecialistのみが行うのではなく,外科医の卒後教育の一環としてとらえられるべきである.そのためには指導医が教育プログラムを組んで研修医などの指導に当たる必要があると考える.

キーワード
腹腔鏡下手術, 大腸癌, ultrasonic aspirator, リンパ節郭清, 進行癌

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