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日外会誌. 98(3): 361-365, 1997


特集

大腸癌-診断と治療の進歩

3.病理診断の実際と問題点

岩手医科大学 中央臨床検査部・臨床病理部門

中村 眞一

I.内容要旨
近年大腸の微小腺腫が発見されて以来,大腸癌の病理診断に混乱が生じている.微小腺腫を積極的に癌と診断すべきとの意見とまずは従来からの組織分類を用いるべきであるとの意見の対立がある.この対立の解消は容易でないが,外科病理学の立場から一般的な症例の病理診断の実際について解説を行い,次にわれわれの組織診断基準について述べた.
大腸癌の病理診断に関して,まず採取法による問題点がある.採取法は生検,ポリペクトミー(粘膜切除),手術に分かれるが,生検材料では生検に内在する診断限界についてふれ,次に生検group分類の問題点を論じた.ポリペクトミー材料では,追加腸切除の判定基準と病理診断の問題点について述べた.手術材料では,標本処理と切り出しの方法を述べ,系統的切り出し法の重要性を強調した.
手術材料についての病理診断では,大腸癌の臨床病理学的事項(年齢,性,発生部位,肉眼形態,組織像など)について,自検例と全国大腸癌登録調査報告からのデータを比較し,各項目別に問題点について論じた.大腸癌は男女とも増加傾向にあり,人口の高齢化を反映して,罹患年齢も高齢者の割合が多くなっている.また結腸癌の発生頻度が直腸癌を上回ってきており,女性にその傾向が強い.
大腸腫瘍の診断基準については,境界領域病変の存在と,その概念を取り入れた大腸粘膜内腫瘍(COIN)分類について説明した.COIN分類に従った大腸腫瘍を4つの生物学的因子(DNA量, p53蛋白過剰発現,核内AgNORドット数, Ki 67抗体による細胞増殖能)を用いて調べた.各因子をスコア化してその合計と組織異型度の関係を検討した.その結果組織異型度と生物学的因子とはよく相関し,COIN分類の有用性が証明された.
境界領域病変を実際の病理診断に取り入れること,および表面型大腸腫瘍にも既存の診断基準を当てはめてもよいというのがわれわれの見解である.

キーワード
大腸癌, ポリベクトミー, 表面型腫瘍, 良・悪性境界病変, HNPCC

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