[
書誌情報]
[
全文PDF] (3638KB)
[会員限定・要二段階認証]
日外会誌. 98(1): 2-7, 1997
特集
肺癌治療の現状
2.肺癌の分子生物学的予後因子
I.内容要旨肺癌細胞の分子生物学的特性よりみた非小細胞癌における予後因子について述べた.細胞増殖能マーカーとしてのDNA ploidy,AgNORs,PCNAはいずれも予後因子としての可能性はあるが,確実性があるとは言えない.細胞外マトリックス分解酵素としてのMMPsは肺癌での検討が不十分で評価し得ない.uPAは予後因子として可能性が低い.PAI-1とuPARが腺癌の予後因子になる可能性もあるが,検討が不十分である.Cathepsin Bは,現在まで報告された組織型別,病期別でのすべての知見が有意に予後因子になるとされている.予後因子として確実性があると言える.癌遺伝子であるras遺伝子の異常が腺癌の予後因子になるとされているが,有意差ないとの報告もみられ,予後因子として確実性があるとは言えない.ras P21蛋白の発現量は確実性のある予後因子と考えられるが,報告例が少なく,今後の研究課題として残る.erb B2遺伝子は腺癌全体では予後因子になるとする報告をみるが,I期腺癌では予後と関連していないとする報告がみられ,確実性に乏しい.癌抑制遺伝子であるP-53遺伝子,その産物であるP53蛋白の発現と予後との関連については非常に多くの検討が見られる.両者とも非小細胞癌の予後との関連について,賛否両論があり意見の一致を見ていない.組織型別にみても同様である.P53蛋白の発現量で肺癌の予後判定は無理があり,予後因子として可能性は低い.
予後因子とは患者の生存期間に影響をおよぼす,治療前の宿主と腫瘍側の特徴である.より確実性の高い予後因子が明らかにされれば,臨床的により再発の可能性が高く予後不良と推量される肺癌に対して,術後化学療法などの治療を早期に行うことで肺癌の生存率向上が期待されると考える.
キーワード
予後因子, 細胞増殖能マーカー, 細胞外マトリックス分解酵素, 癌遺伝子, 癌抑制遺伝子
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。