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日外会誌. 97(11): 1003-1009, 1996


特集

臓器移植

10.臨床小腸移植

ピッツバーグ大学 外科

藤堂 省 , 古川 博之 , 村瀬 紀子

I.内容要旨
1990年5月から1996年8月までに,合計87例の小腸移植を行った.小児52例(平均年齢3.3歳),成人35例(平均年齢32.6歳)である.小児では,gastroschisis,volvulus,intestinal atresia等に伴う腸管大量切除による短腸症候群が主要な手術適応であり,約20%は機能的小腸不全により移植手術をうけた.成人では,上腸間膜動静脈血栓症・Crohn氏病・外傷等が主な原因疾患である.これ等症例のほとんどが,敗血症・大静脈血栓症・肝不全等で長期中心静脈栄養法の維持に困難を来たしていた.手術々式は,小腸単独移植33例(小児15,成人18),小腸・肝臓同時移植41例(小児30,成人11),腹腔内全臓器移植13例(小児7,成人6)である.術後免疫抑制療法はタクロリムスとステロイド2剤投与が主体であるが,治療法のプロトコールによりこれらの症例を3期に分けることができる(第1期・30例,第2期・29例,第3期・28例).第1期はドナー,レシピエント共に非選択的であり,第2期に腸液喪失防止のために大腸移植をとり入れ,第3期は可能な限りCMV陽性ドナーと大腸移植を除外し他の免疫抑制剤を含めた3剤治療とした.全症例の1年・3年・5年の患者・グラフト生存率は,各々73%と64%,44%と36%,44%と36%であった.各期における1年グラフト生着率は,第1期80%,第2期43%,第3期71%と最近の症例の成績向上がみられ,中でも小腸単独移植の中期生存率は1・2期に比べて第3期で格段に向上した.現在47例(54%)が生存し,その内42例(90%)は完全経口栄養に移行した.グラフト・ロスの主因は種々の試みにもかかわらず拒絶反応と感染症で,今後更なる免疫抑制療法の向上が必要である.更に移植腸管の運動異常も重要な問題で,今後その原因の究明と治療法の開発が必要である.

キーワード
小腸移植, タクロリムス, 小腸不全


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