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日外会誌. 97(11): 978-983, 1996


特集

臓器移植

6.肝移植

京都大学大学院 医学研究科移植免疫医学

猪股 裕紀洋

I.内容要旨
1980年代のはじめから開始された臨床肝移植は,世界で5万の症例に行われ施設数も200以上におよぶ一般的医療となった.世界の大部分の症例は脳死ドナーを利用したものであり,適応疾患としては,米国の登録では成人では肝硬変が最も多く66%をしめ,小児では胆道閉鎖が最も多く,約50%であった.初回移植1年生存率は約80%となっている.移植後の死因としては,適応疾患を反映して,肝硬変や腫瘍における原疾患の再発が大きい要素である.脳死肝移植における現在の最大の問題はドナーの不足であり,小児での部分肝移植,分割肝移植や,生体肝移植による対応が行われてきているが十分ではない.日本では,生体肝移植が開始されて6年たち,生存率は80%程度と脳死移植と同等であるがその対象はなお小児に偏向しており,したがって対象疾患も脳死移植に比して成人肝疾患,悪性肝腫瘍などの適応が非常に少ない.成人肝移植を進めるためにも日本でも脳死肝移植の推進が急務であるが,6年間の生体肝移植の経験から,生体肝移植自体のさらなる成績向上のためには,死亡の多くを占める感染症に対する移植前後を通じた対策,ABO不適合移植における免疫抑制法の再検討,劇症肝不全などの緊急例に対応できる診療体制の確立,年長児での経験をふまえた成人症例の適応拡大,そしてなにより,施設数の増大拡充とそれを裏付ける,医療費など経済的問題を含めた移植医療全体に対する社会的支援が不可欠である.

キーワード
肝移植, 生体肝移植

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