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日外会誌. 97(11): 970-977, 1996


特集

臓器移植

5.腎移植

京都府立医科大学 第2外科

安村 忠樹 , 岡 隆宏

I.内容要旨
慢性腎不全患者は血液透析によって延命可能であるが,腎機能の代償能力は不完全であり患者のqualityof life(QOL)は決して高くはない.一方,腎移植では血液透析で得られない高いQOLが得られるが,これを維持するためには,移植腎のより長期間の生着が不可欠である.腎移植ではcyclosporineなどの良質な維持免疫抑制剤,OKT-3,deoxyspergualineなどの急性拒絶反応の治療薬の開発導入により,その早期成績は格段に向上した.しかし長期経過例における慢性拒絶反応は,その発症機序や治療法も明らかではなく,これが移植腎の長期予後を悪化させる.また移植後の長期成績を低下させる要因として,CsAの腎毒性も重要である.これに対してはCsAを減量するとともに,azathioprine,抗リンパ球抗体などを加える,いわゆる多剤併用療法によってほぼ回避された.移植後の合併症も成績を悪化させ,患者のQOLを低下させる要因である.合併症のうち感染症は移植後早期に高率に発症し,特にCytomegalo virus感染症は時に致命的ともなるが,新たな診断法,治療法の開発導入によって死亡率も減少した,しかし長期生着例においては,ウイルス性肝炎による肝不全,悪性腫瘍の発症,心循環器系の合併症,などが患者の生命予後を悪化させる.また大腿骨頭壊死,糖尿病,白内障,などは,移植後の患者のQOLを低下させる.わが国の腎移植医療における最も重大な懸案事項は,移植件数の少なさである.わが国の腎移植成績は,欧米のそれと比べ優るとも劣るものではない.しかし腎移植件数は年間600例に満たず,腎移植が医療として普及したとは言いがたい.このため生体腎移植における適応の拡大などの努力がなされている.しかし臓器移植本来の姿は死後の臓器提供に基づく献腎移植であり,腎移植を普及させるために日本臓器移植ネットワークを中心に,死後の臓器提供の活性化に向けて最大の努力が払われなければならない.

キーワード
腎移植, 慢性腎不全, シクロスポリン, 合併症, 献腎の活性化


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