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日外会誌. 97(11): 964-969, 1996


特集

臓器移植

4.移植免疫と免疫抑制剤

国立小児病院小児医療研究センター 実験外科生体工学部

鈴木 盛一

I.内容要旨
移植免疫を分子生物学的な面よりとらえ,そこにおける免疫抑制剤の作用機序について解説する.細胞膜の受容体が活性化されると細胞内ヘシグナルが伝達され,核内へと中継され,特定の遺伝子の発現を調節する.その伝達は,シグナル蛋白がネットワークを形成し,次々と活性化していく反応系により行なわれる.活性化受容体のsecond messengerとしてはTKかG蛋白質のいずれかである場合が多い.TKは蛋白質のチロシンをリン酸化して,リン酸化連鎖反応を伝えていく.G蛋白質は,PLCを活性化させ,PIP2を分解しIP3とDAGを形成する.IP3は小胞体膜のCa2+チャネルを開け,Ca2+を放出させる.Ca2+は,calmodulinに結合しcalcineurinを活性化させる.その結果,細胞内の転写因子NF-ATcの脱リン化が起こり,それが核内へ移行する.DAGはPKCを活性化させ,NF-ATnを核内へ局在させる.NF-ATcとNF-ATnは核内で会同して,サイトカイン遺伝子のプロモーター領域に作用し,mRNAの転写を開始させる.PKCの下流に存在するもう一つの経路ではNF-κBを核に移行させ,特定の遺伝子のプロモーター領域に働かせる.
産生されたIL-2はIL-2Rに結合し,それを活性化させ,酵素のリン酸化連鎖反応を拡げて行き,細胞の分裂,増殖を起こす.
CsAやFK506はそれぞれCyP,FKBPと複合体を形成し,calcineurinの作用を抑制する.rapamycinもFKBPと結合するが,P70 S6kinaseの活性化を阻害し,細胞の分裂,増殖を抑制する.RS61443やmizoribineはプリン代謝阻害剤であるが,代謝経路のdenovo系を特異的に抑制する.DSGはHsc70と結合すること,NF-κBの核内移送を抑制することなどが示されている.FTY720はリンパ球に特異的にアポトーシスを起こすが,Fas抗原には関係なく,bcl-2遺伝子の制御を受けることが明らかにされている.

キーワード
移植免疫, 免疫抑制剤, リセプター, シグナル伝達, 転写因子

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