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日外会誌. 97(10): 873-878, 1996


特集

大動脈解離の治療の現況

大動脈解離の病理

慶應義塾大学 医学部病理

細田 泰弘

I.内容要旨
大動脈解離は日常的な疾患ではないが,重篤かつ多彩な症状を呈する疾患であり,とくに急性型は救急時に常に鑑別を必要とする疾患の一つである.
本症については永らくDeBakey分類が用いられてきたが,最近では上行大動脈の解離の有無によるStanford分類が,臨床的にも有用であるところから一般的になっている.
大動脈解離の特徴は大多数の例で内膜裂口が存在すること,裂口を上端とする解離が上行大動脈あるいは左鎖骨下動脈分岐部直下部に発生する症例が多く,また,解離が大動脈中膜外層ないし,中膜・外膜境界部で生ずることである.また高血圧症の合併が多くの例で認められる.このような特徴は,大動脈解離の発生に動脈壁の脆弱化を前提にした血行力学的要因が関与していることを示唆している.一方,大動脈解離はMarfan症候群を代表とする結合組織代謝異常症においても発生する.Marfan症候群についてはelastinと密接する糖蛋白の一種fibrillinの遺伝子突然変異による欠損が原因であることが明らかとなり,またMarfan症候群の周辺に別種の遺伝子異常が少なからず存在することも明らかとされつつある.
これによって以前から本症の組織学的変化として記載されてきた酸性プロテオグリカンの蓄積を主体とする“嚢胞状中膜壊死”はむしろ大動脈の傷害に対する二次的な反応とする評価が有力となり,大動脈解離の病因論に新たな展開がみられるに至った.
また,少数例ではあるが内膜裂口の見出せない症例もあり,中膜の非出血性解裂を先行病変とする報告もあることは注目すべき点である.

キーワード
大動脈解離, 病理, Marfan症候群, fibrillin, 中膜壊死

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