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日外会誌. 97(9): 771-777, 1996


特集

外科的侵襲と生体反応

III.外科的侵襲と臓器不全
7.サイトカイン・ストームと多臓器不全

慶應義塾大学 医学部救急部

相川 直樹

I.内容要旨
大手術,重傷外傷,術後重症感染症などの過大あるいは反復する外科的侵襲を受けた患者には,肺,心,肝,腎,消化管,血液凝固系,中枢神経系などの臓器・系の機能が障害される多臓器不全multiple organdysfunction syndrome(MODS)が発生し,しばしば重症の経過をとる.外科患者のMODS発生には,組織損傷,ショック,感染などの侵襲に引続いておこる阻血再灌流,アノキシア,apoptosisによる細胞死など,複雑な現象が関与しており,サイトカインその他のメジエータにより惹起されるsystemic inflammatoryresponse syndrome(SIRS)を基盤にMODSが発生する.その発生機序において,TNFとIL-1は中枢性サイトカイン(pivotal cytokine)となっている.侵襲直後に,まつ侵襲を受けた局所でマクロファージからTNFやIL-1が産生され,その産生が自己増幅されるとともに,局所で過剰産生されたTNFやIL-1が循環血中に入り,全身で好中球,血管内皮細胞,血小板に作用し,サイトカインその他のメジエータの産生を誘導して全身性炎症反応を起こす.TNFやIL-1のほか,IL-2,IL-6,IL-8などの炎症性サイトカインやIL-10,可溶性TNF受容体,IL-1受容体アンタゴニストなどの抗炎症性サイトカインも血中に高濃度検出されるサイトカイン・ストーム(cytokine storm)とよばれる状態となる.サイトカイン・ストームでは,本来生存に合目的な生体反応は,その制御機構が破綻して,自己破壊的となる.このようなMODSの発生機序の解明が進むとともに,過剰のサイトカインその他のメジエータの産生や作用を制御する種々のメジエータ対策が試みられている.
外科患者は手術や外傷などで,組織損傷,落痛,出血,臓器阻血,感染,飢餓など様々な侵襲を受けるが,侵襲直後より生存に必要な多様な生体反がおこり,侵襲を克服する1).しかし,過大な侵襲や反復する侵襲を受けた患者では,種々のサイトカインが高濃度に循環血液中に出現する「サイトカイン・ストーム」とよばれる状態となり,生体反応は,その制御機構が破綻して自己破壊的となり,多臓器不全が発生する1)2)

キーワード
侵襲, サイトカイン, サイトカイン・ストーム, SIRS, 多臓器不全

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