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日外会誌. 97(9): 733-738, 1996


特集

外科的侵襲と生体反応

III.外科的侵襲と臓器不全
1.中枢神経系
-侵襲と神経系の示す病態生理-

昭和大学 医学部救急医学

有賀 徹

I.内容要旨
外的な侵襲に対して,神経系の示す病態生理学的な反応について概説した.一般的に,組織破壊やストレスといった外的侵襲は,知覚神経や受容体を介して,中枢神経系に伝わり,神経内分泌反応から各種ホルモンの分泌等に至り,代謝の変動が引き起こされる.また,種々のcytokineが全身性炎症反応で知られる機序を引き起こすことも知られている.このような過程で,極めて早期の脳症についても,これらcytokineの存在により,補体の系やfree radical等の反応とあいまって,血管の透過性が充進し,浮腫が助長され,また凝固系の活性が高まる等により,脳における微小循環が阻害され,組織での虚血が生じ,様々な神経症状や脳波上の徐波化がみとめられると考えられる.頭部外傷や脳血管障害の重症例では,意識障害が遷延することもしばしばで,その際に各種の治療過程で呼吸器,尿路の感染症,bacterial translocation等に遭遇する.従って,より一層の神経損傷や脳浮腫が進み,脳損傷増悪が助長される.一方,挫傷を受けた脳自体からもTNF-α,他が生じることが示される等,脳局所の病態も全身性炎症反応の機序を惹起し得ることが示される.このように,外的侵襲による神経系および全身の示す変化は,言わば相互関係的ないし統括的な病態生理として把握することが重要である.一般的に,脳循環や脳代謝の状況を充分に理解して,全身管理を行い,患者の治療等が進められるが,例えば,頭部外傷を伴った多発外傷についても,このような侵襲学的な観点から,全体像を一括して考える概念が,今後に望まれるところとなろう.

キーワード
サイトカイン, 全身性炎症反応, 脳症, 敗血症, 重症脳損傷


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