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日外会誌. 97(9): 716-720, 1996


特集

外科的侵襲と生体反応

II.外科的侵襲と全身反応
3.フリーラジカル

杏林大学 医学部救急医学

行岡 哲男 , 田中 秀治 , 池上 敬一 , 島崎 修次

I.内容要旨
電子は原子核周囲の軌道上で自転方向が異なる2個の電子が対になれば安定した状態となる.この対となる電子を持たないものを不対電子という.フリーラジカルとは,この不対電子を持つ分子・原子ことで,酸化還元力が強いものが生体組織を傷害する.
酸素ラジカル(O2ー・,HO)は,再灌流時にミトコンドリアや,キサンチン酸化酵素により発生する.また,食細胞のNADPH酸化酵素の作用や,アラキドン酸がプロスタグランディンやロイコトルエンに代謝される過程でも発生する.NOは種々の刺激により誘導される誘導NO合成酵素(iNOS)による,過剰な生成に病的意義があると考えられている.
酸素ラジカルによる,膜脂質の傷害は,ショックに伴う血管透過性冗進と関連づけて考えられている.アミノ酸残基が酸素ラジカルにより酸化されると,酵素はその活性を失う.また,ピアルロン酸の糖質も酸素ラジカルにより切断され結合組織が傷害を受ける.NOは血管平滑筋を弛緩させ,敗血症の循環動態の変化に関与すると考えれれる.血管平滑筋への作用とは別に,NOはO2ー・と反応しNOxやONOOを発生し,これは金属を含む蛋白質と反応しその機能を障害する.
酸素ラジカルは,蛋白分解酵素と相乗的に作用するが,蛋白分解酵素阻害剤にはラジカルスカベンジャー作用を持つものがある.ラット熱傷モデルで,このような作用を持つウリナスタチンの投与により脂質傷害の程度を反映するMDAが低く,生存率も改善することが報告されている.
また,ラジカルスカベンジャー作用を有するビタミンCの大量投与により,熱傷の呼吸・循環動態が安定し,蛋白漏出が抑制されることが動物実験で確認されている.
フリーラジカルは外科的侵襲に伴う生体の傷害に関わる物質である.しかし,同時に生体の防御機構にも密接に関与しており,この物質の的確な制御は臨床上重要な意義を持つ.

キーワード
不対電子, フリーラジカル, 酸素ラジカル, NO (一酸化窒素)

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