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日外会誌. 97(8): 657-662, 1996


特集

胆道拡張症と胆道閉鎖症-最近の治療の動向-

胆道閉鎖症治療としての肝移植

京都大学 移植免疫医学講座

猪股 裕紀洋 , 田中 紘一

I.内容要旨
1990年の生体肝移植開始以来,157例の胆道閉鎖症症例が肝移植を施行された.全例が葛西手術を受けた既往があり,胆道閉鎖症の1次治療として肝移植を施行された症例はまだない.移植の適応タイミングとしては,1歳以前の乳児では,体重増加不良を契機とすることが最も多く,これが肝不全の初期の兆候として重要である.一方,年長児では,より多彩な適応要因があり,頻発する胆管炎,消化管出血,強い掻痒感などのほか,進行した肺内シャントによる低酸素血症も,たとえ黄疸の合併が無くとも適応としている.初回葛西手術によっても胆汁流出の無い症例では1歳以前の早期に肝不全にいたるため,1歳以前でも躊躇無く移植に踏み切ることが胆道閉鎖症症例全体の救命に不可欠である.葛西手術による減黄不良例では,再手術も考慮されるが,移植医の立場からは,少なくとも複数回の再手術は,その後の移植の合併症発症や生存率にすら悪影響を及ぼすため推奨できない.
胆道閉鎖症葛西手術後の移植には,全肝摘出に必要な肝周囲の癒着剥離と,硬化狭少化がみられる門脈の再建で慎重な手技を要求される.現在の胆道閉鎖症移植後生存率は88%である.移植後の死亡原因の主なものは感染に関係しており,その対策が最も重要である.術中は,肝門部の腸内容による術野汚染を極力避けるとともに,同部の細菌培養を必ず施行しておき,術後の使用抗生剤決定時の参考にする.移植後の生活の質は,非常に良好であり,登校(園)など通常の生活が殆どの生存例で可能である.移植前,肝性のクル病を呈していることが多いが,術後骨塩定量では,免疫抑制剤のステロイド中止に伴い成長が加速することが多い.
肝移植可能時代の胆道閉鎖症では,葛西手術とこれにひき続く肝移植の双方を用いて,飛躍的な生存率の向上を望みうるはずである.

キーワード
胆道閉鎖症, 肝移植, 生体肝移植


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