[書誌情報] [全文PDF] (3079KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 97(8): 637-641, 1996


特集

胆道拡張症と胆道閉鎖症-最近の治療の動向-

胆道閉鎖症の長期予後:特に20年以上生存例30例に関する検討

東北大学 医学部小児外科

仁尾 正記 , 大井 龍司 , 島岡 理 , 岩見 大二 , 佐野 信行

I.内容要旨
個々の患者の管理の面からはもちろん,胆道閉鎖症の外科的治療における肝門部腸吻合術の役割を正しく評価する意味においても術後長期フォローアップは重要な意義を有している.このような目的から,今回我々は術後20年以上経過例30例を対象として,黄疸や術後合併症の有無,QOL等に着目して現況を調べた.対象となった症例は男性10例,女性20例で,年齢は20歳から41歳であった.病型はI型10例,II型3例,III型17例であった.検討の結果,全例で一旦黄疸の消失を認めたが,3例で黄疸再発が持続し,2例で時に黄疸出現を認めた.それ以外の25例では黄疸の消失を維持していた.14例(47%)に上行性胆管炎の既往があり,内7例では最近3年以内にも胆管炎を合併していた.さらにこのうちの2例では胆管炎は重症かつ頻回であった.門脈圧亢進症については11例(37%)にその合併を認めた.食道静脈瘤と脾機能亢進症の両者を認めた5例中4例に脾摘+近位脾腎静脈吻合術(内2例では後に内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(EIS)が追加)が行なわれ,食道静脈瘤のみを認めた6例中1例でEISが施行されたが,残りの計6例では特に治療を要せず経過観察中である.QOLとして全体的に評価すると,30例中22例では良好なQOLを示しているのに対し,2例では進行性の肝機能障害のため将来肝移植が必要となる可能性が高いものと判断された.また残りの6例中5例では何等の合併症を認めるが症状改善の期待も持たれており,他の1例は胆道閉鎖症と関連のない病態(ターナー症候群)のためQOL低下をきたしていた.術後治癒例が着実に増えている一方で,長期経過例と言えども,胆管炎などの合併症もみられることから,さらに長期間の慎重な経過観察が必要である.

キーワード
biliary atresia, hepatic portoenterostomy, hepaticoenterostomy, quality of life, long-term follow-up, survivor


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。