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日外会誌. 97(8): 599-605, 1996


特集

胆道拡張症と胆道閉鎖症-最近の治療の動向-

胆囊癌と膵胆管合流異常

九州大学 医学部第1外科

千々岩 一男 , 田中 雅夫

I.内容要旨
膵胆管合流異常(以下APBDJ)は,胆管と膵管が十二指腸乳頭括約筋の作用の及ばない十二指腸壁外の高位で合流するものと定義され,胆汁と膵液の混入逆流のため胆道と膵臓に種々の病態を生ずる先天異常である.APBDJの頻度は,ERCP検査の1.5~2.6%,胆道系手術例では3%であり稀ではあるが,その80%近くに胆道拡張症の合併(胆道拡張症の90%以上にAPBDJあり)を認めることや高率な胆道癌(胆嚢・胆管)の発生によりAPBDJが惹き起こす病態が注目されるようになった.胆道拡張症の発癌部位は殆どが胆嚢か肝外胆管であり胆道癌の頻度は3~18%との報告があるのに対し,胆道拡張のないAPBDJの発癌部位は主に胆嚢であり胆道癌の頻度は33~77%もの高率に達する.胆道拡張症の診断時には,予防的にも肝外拡張部胆管を膵管との合流部直上で切除し胆嚢摘出を施行することに異論はないであろう.肝内胆管の拡張を伴う胆道拡張症で肝内胆管癌の発生の報告があり肝切除を唱える向きもあるが,我々は肝内胆管癌の経験はなくかつ肝内胆管の拡張が両葉を占めるものが85%あり,予防的肝切除は不要と考えている.胆道拡張のないAPBDJの場合は,その高率な胆嚢癌発生率から予防的にも胆嚢摘出を行うが,胆汁と膵液の混入は残るが鶴帯のない非拡張胆管切除まで加える必要があるか否かの結論は更なる症例の蓄積を待ちたい.我々は胆道拡張のないAPBDJに肝外胆管癌を認めていないが,その頻度は胆道癌の10~23%とする報告もある.我々のAPBDJに対する治療方針は,胆嚢癌,胆管癌,膵癌や繰り返す膵炎がある場合以外は,胆道拡張症では肝外胆管切除+胆嚢摘出を,胆道拡張のないAPBDJでは胆嚢摘出を行い,肝胆膵の注意深い経過観察を行う方針としている.癌があればその進展度に応じた肝切除,胆管切除,膵頭十二指腸切除を行う.

キーワード
膵胆管合流異常, 胆道癌, 胆囊癌, 胆道拡張症


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