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日外会誌. 97(6): 437-441, 1996


特集

食道癌外科治療の実際

食道癌手術の術後管理と処置
(1)術後肺炎

(財) 癌研究会附属病院 消化器外科

松原 敏樹

I.内容要旨
従来,肺炎は縫合不全とともに胸部食道癌術後の主要重篤合併症であった.術後肺合併症の防止のためには,良好な循環動態や呼吸状態の維持,気道内貯留物の排除,適切な抗生剤の選択が重要である.われわれはrefilingの時点まではレスピレーター管理を原則とし,術後5日間は1日2回以上気管支鏡による喀痰吸引を行っている.周術期の抗生剤使用は必要最少限とし,合併感染症がなければ術直前には抗生剤投与は行っていない.術直後の予防投与は急激な感染症を起こしやすい強毒菌種を対象とし,その後は培養検査に基づき対象菌種を絞っている.
1985~95年の右開胸開腹頸胸腹郭清症例300例中,在院死亡例は12例(4%)であった.肺炎合併在院死亡6例はいずれも1989年以前の症例であった.このうち4例は他の重篤合併症からの続発性肺炎,他の2例は誤嚥性肺炎であった.最近2年間(1994~5年)における定型郭清75症例の術後合併症では,肺炎は9例(2例は誤嚥性肺炎,2例は間質性肺炎,1例は縦隔炎気管穿孔に続発した肺炎)であった.この期間の術後気管切開例は4例であり,肺炎によるものは間質性肺炎の2例,気管穿孔の1例であった.なお,気管潰瘍が認められた症例が4例あったが,いずれも小範囲であり保存的に治癒した.食道癌術後では日和見感染菌とされる真菌属,P. aeruginosa,MRSA等が高率に気道から検出され,これらは術後早期にも多かった.MRSAは部位別には気道,便の順に高頻度に検出され,また,他の部位に先行してまず気道から検出されることが多かった.経気道・経口感染がMRSAの最も重要な感染経路と考えられた.
近年,食道癌術後の重症肺合併症の頻度は減少した.これは術式や術後管理技術の進歩によるものであり,ひとたび難治性肺炎を生じれば容易に致命的となることには変わりはない.病態変化を正確に把握し,迅速に対応することが必要である.

キーワード
食道癌, 術後肺炎, MRSA, 食道癌術後合併症

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