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日外会誌. 97(6): 421-426, 1996


特集

食道癌外科治療の実際

食道癌手術の術中管理と処置
(2)術後合併症の予防を考えた処置・手技

久留米大学 医学部第1外科

藤田 博正

I.内容要旨
私達が経験した胸部食道癌の主な術後合併症について,それらを防止するための術中の処置,手技を述べた.
1)反回神経麻痺:右反回神経は縦隔操作の最初に確認し,温存する.左反回神経はtapingする.神経付近の止血はbipolar電気メスかhemoclipを用いる.2)誤嚥性肺炎:頸部気管前面の剥離を避ける.後縦隔再建.食道胃管問遊離空腸移植術.3)呼吸不全:分割手術.術中に十分量の輸液.右気管支動脈・迷走神経肺枝・胸管温存手術.4)膿胸:食道穿孔を避ける.穿孔した場合は胸腔ドレーンを2本挿入し,長期留置する.5)肺炎:術前喀疾培養検査.術中に感受性のある抗生剤使用.術直後に気管支鏡で喀疾や出血を吸引する.6)吻合部狭窄:手縫い吻合.器械吻合では25mm以上の吻合器を使用する.7)後出血:動脈は二重結紮.肋骨切断部・骨折部に注意.8)気管の阻血性変化:右気管支動脈・気管固有鞘の温存.中下部食道癌では気管前リンパ節郭清を控える.頸部食道傍リンパ節郭清の際,下甲状腺動脈の損傷を避ける.広背筋弁による気管膜様部の被覆.後縦隔再建.9)胃管潰瘍:胃管作成時,潰瘍や疲痕の切除.胸壁前再建.減圧チューブの長期留置.術後に強力な抗潰瘍剤使用.10)横隔膜下膿瘍・膵痩:脾臓損傷に対し,できる限り脾摘を避ける.脾摘に際し,膵損傷を避ける.11)イレウス・内ヘルニア・腸重積:空腸痩作成時,Treiz靱帯と空腸痩の間を固定する.多孔の栄養チューブを使用する.12)乳座胸・頸部胸管痩:胸管の確実な温存.局所進行癌ではその尾側で胸管結紮.13)胆嚢炎:胆石があれば,胆摘.14)横隔神経麻痺:頸筋膜椎前葉の前面を剥離する際,横隔神経を確認する.15)肺捻転:閉胸前に肺を膨張させ,位置を確認する.

キーワード
胸部食道癌, 術後合併症, 食道切除術, リンパ節郭清術


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