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日外会誌. 97(5): 363-367, 1996


特集

乳癌領域の最近のトピックス

乳腺穿刺吸引細胞診の新知見
-細胞診標本を用いたFluorescence in situ hybridization[FISH]による細胞遺伝学的解析の試み-

東海大学 医学部病態診断系病理学部門

渋谷 誠 , 長村 義之

I.内容要旨
[目的]FISH(Fluorescence in situ hybridization)によるinterphase cytogeneticsは,分裂期細胞のみならずそれ以外の問期細胞(interphase cells)において,染色体のある特定の部位を認識する事により染色体分析を行う方法である.この方法は,従来の組織培養による核型分析法(karyotyping)に比べ,迅速かつ高率に全ての細胞周期にある腫瘍細胞核から,特定の染色体の細胞遺伝学的情報を得ることが可能である.乳腺腫瘍の通常の細胞診標本上に本法を応用する事で,腫瘍の染色体分析が容易に行い得るので,臨床応用への期待が高まっている.本稿では我々の行っている,乳腺腫瘍の細胞診標本を用いたFISHによる細胞遺伝学的異常の解析の実際を詳述するとともに,その臨床応用への可能性について議論する.[結果]乳腺悪性腫瘍約40例,および乳腺良性腫瘍約10例の検索を行った.第1,3,11,17番染色体各々において,悪性腫瘍では約85%の症例にいずれかの染色体の数的異常が認められたが,良性腫瘍では認めなかった.但し,線維腺腫の一部でシグナル数が3個を示す細胞が少なからず見られた.悪性腫瘍で見られた異常の殆どはtrisomyまたはそれ以上を呈し,著名なheterogeneityを認めた.最高で8~10シグナルのpolysomyを呈した例もあった.monosomyを呈したものは少数例のみで,第17番染色体に限られていた.[考案]乳腺腫瘍の細胞診標本上におけるFISHによるinterphase cytogeneticsは,腫瘍の良悪性の鑑別に有用であることが判明した.今後,多くの施設でFISH法による検討が行われ,腫瘍の発生,進展のメカニズムの解明,患者予後の推定や治療方針の決定に役立つことが期待される.

キーワード
Fluorescence in situ hybridization(FISH), interphase cytogenetics, breast neoplasms, cytologic preparation


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