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日外会誌. 97(3): 220-226, 1996


特集

虚血性心疾患における治療の選択

多枝冠動脈バイパス手術の適応と成績
-各種動脈グラフトの使用経験-

1) 三井記念病院 心臓血管外科
2) ローマ・カトリック大学 心臓外科

須磨 久善1)2)

I.内容要旨
経皮的冠動脈バルーン拡張術(PTCA)や各種のnew deviceの普及に伴って冠動脈バイパス術(CABG)の対象となる症例は重症化を呈してきた.従来CABGによって治療されていた一枝,二枝病変で左室機能が良好に保たれている症例の多くは現在catheter interventionの適応とされ,これら比較的軽症例がCABGの対象となることは少ない.従って,現在心臓外科医に課せられた症例の多くは3枝以上のバイパスを要する多枝病変を有し,既に左室機能障害を呈する重症例であり,しかも他の心血管病変や主要他臓器疾患を合併する高齢者の頻度が増加しつつある.一方,CABGとPTCAの治療法としての優劣を考える時,その侵襲の少なさと在院日数の短さではPTCAが勝ることは明らかであるが,PTCAや他のnew deviceが未だ克服しえない“再狭窄”の問題がある限りCABGの最も重要な利点として,冠血行再建効果の長期にわたる維持が特筆されなければならない.つまり,より“重症化”した症例を相手に,より“quality”の高いバイパスを“安全”に行わなければならないという責任が現在の心臓外科医に課せられた使命である.
これら重症例に対してqualityの高い手術を安全に行うために,よりよい心筋保護法のもとに,長期開存性にすぐれた内胸動脈をはじめとする動脈系グラフトの使用が積極的に行われつつある.自験例における常温体外循環法を用いた過去4年間の初回CABG手術690例において,早期死亡率は1.5%(待機手術0.7%,緊急手術5.6%)で,94%の症例に内胸動脈グラフトを使用し,開存率は98%であった.1986年以来,胃大網動脈グラフトを565例に使用し,早期死亡率2.3%,早期開存率96%,中間開存率92%であった.下腹壁動脈使用例は48例で,早期死亡率2%,開存率90%,また,1993年以来梼骨動脈を105例に使用し,早期死亡率0.9%,開存率88%であった.対象例の重症化にかかわらず,CABGの有用性は着実に高まりつつある.

キーワード
coronary artery bypass grafting, arterial graft, ischemic heart disease


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