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日外会誌. 97(2): 165-171, 1996


特集

外科と糖鎖抗原-癌関連糖鎖抗原の意義-

消化器癌における sialyl Lex抗原発現の意義

大阪府立成人病センター 第1外科

中森 正二 , 新井 勲 , 岡村 修 , 今岡 真義 , 古河 洋 , 甲 利幸 , 石川 治 , 佐々木 洋 , 亀山 雅男 , 岩永 剛

I.内容要旨
従来腫瘍マーカーとして利用されてきた癌関連糖鎖抗原が,癌の悪性度を決定する浸潤・転移の重要な要素である接着性や運動性に関わる生物学的機能を持つことが明らかになってきた.このような機能的糖鎖抗原の一つと考えられる血管内皮細胞接着因子セレクチンのリガンドとして細胞接着性に関与するシアリルLex抗原(sLex)およびシアリルLea抗原(sLea)に注目し,これらの糖鎖抗原の消化器癌における発現の意義を悪性度指標という面から検討した.食道癌99例,胃癌137例,大腸癌159例,膵癌51例の原発腫瘍におけるsLexおよびsLeaの発現性の検討を免疫組織染色によりおこない,発現性と臨床病理組織学的諸因子との相関や予後との関連を検討した.臨床学的因子との相関では,食道癌でsLex高発現性と深達度,胃癌でsLex高発現性と組織分化度,sLea高発現性と腫瘍肉眼型,深達度,リンパ節転移,脈管侵襲との相関を認めた.大腸癌では,sLex高発現性と組織分化度,深達度,リンパ節転移,脈管侵襲とに有意な相関を認め,sLea高発現性も組織分化度,深達度,リンパ節転移と相関した.膵臓癌では,sLex,sLeaともに病理組織学的諸因子との相関は認められなかった.術後生存率との関連では,sLex高発現性の食道癌,大腸癌の予後は低発現群に比べ有意に不良であり,胃癌ではsLea高発現性の場合が有意に予後不良であった.膵癌では予後との有意な相関は認めなかった.多変量解析による検討の結果,胃癌で,sLea発現性が肉眼型,リンパ節転移の有無,脈管侵襲の有無ともに,大腸癌で,sLex発現性が深達度,リンパ節転移の有無とともに独立した有意な予後指標であることが見出された.これらのことから,癌関連抗原であるsLex,sLeaが機能的糖鎖抗原としての役割を持ち,臓器特異性に違いがあるものの,消化器癌の生物学的悪性度指標としての意義を持つものと考えられた.

キーワード
消化器癌, 悪性度, シアリルLex抗原, シアリルLea抗原, 予後因子

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