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日外会誌. 97(2): 115-122, 1996


特集

外科と糖鎖抗原-癌関連糖鎖抗原の意義-

ルイス抗原群の分子生物学
-血液型と癌関連抗原としてのシアリルルイス抗原群-

創価大学生命科学研究所 細胞生物学部門教授

成松 久

I.内容要旨
糖鎖抗原であるルイス抗原群の生合成に関与する糖転移酵素遺伝子群の最近の分子生物学的研究の進歩について述べた.特に,赤血球型としてのルイス抗原と癌関連抗原としてのルイス抗原の生合成機構の関係について詳述した.ルイス抗原のうち,LeaとLeb抗原はヒト赤血球型の一種である.ルイス式血液型陰性の個体では,ルイス酵素(α1,3/4フコース転移酵素)をコードするFucTIII遺伝子が点突然変異により不活性化されており,赤血球上にLea,Leb抗原ともに持っていない.ルイス抗原群は主に消化管上皮細胞で生合成される.腫瘍マーカーであるsLea(CA19-9)抗原を生合成するのもFucTIII遺伝子由来のルイス酵素であり,それが不活性化されたルイス式血液型陰性の個体(日本人では約13%)ではCA19-9値が陽性となることは決してない.癌細胞におけるsLex抗原の生合成には,ルイス(FucTIII)酵素も関与するが,その他のα1,3フコース転移酵素も重要な役割を果たしている.特に,FucTVI酵素の関与が大きい.
ABO式血液型のH物質(O型抗原)を生合成するα1,2フコース転移酵素については,赤血球と消化管上皮では異なる酵素が関与している.消化管上皮組織でH物質を生合成するのはSe酵素であり(H酵素も一部関与する),赤血球でH物質を生合成するのはH酵素である.それぞれをコードするSe遺伝子とH遺伝子いずれにも点突然変異体が存在し,Se遺伝子が不活性化されたSe酵素変異体(日本人では約17%)はABO式抗原を唾液中に分泌できない個体(非分泌型個体)であり,彼らのルイス式血液型はLe(a+b-)の表現型となる.一方,H遺伝子が不活性化されたH遺伝子の変異体もきわめて珍しいが存在し(数十万人に一人),赤血球にABO式抗原のH物質(O型抗原)すら持たない表現型となる.(ボンベイ,パラボンベイ個体と呼ばれる).

キーワード
糖転移酵素, ルイス式血液型, ルイス抗原, シアリルルイス抗原, フコース転移酵素

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