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日外会誌. 96(7): 466-472, 1995


原著

冠状動脈バイパス術後に生じた新生内膜肥厚の初期変化
-モノクローナル抗体を用いた解析-

1) 大阪市立大学 医学部第2外科
2) 大阪市立大学 医学部第1病理

佐々木 康之1) , 上田 真喜子2) , 末廣 茂文1) , 柴田 利彦1) , 南村 弘佳1) , 服部 浩治1) , 木下 博明1)

(1994年2月10日受付)

I.内容要旨
冠状動脈バイパス術(CABG)後早期におこる静脈グラフト吻合部の変化について詳細に検索した報告はみられない.そこで,CABG後9日までに死亡した3剖検例の6静脈グラフトを対象に,吻合部に生じた新生内膜肥厚を免疫細胞化学的に検索した.使用したモノクローナル抗体は抗筋細胞アクチン抗体HHF35,抗平滑筋細胞アクチン抗体CGA7,抗ビメンチン抗体(VIM),抗デスミン抗体,抗マクロファージ抗体HAM56,抗内皮細胞抗体,抗Tリンパ球抗体,抗Bリンパ球抗体の8種類である.
対照として検索した大伏在静脈の内腔面は一層の内皮細胞により完全に被覆されていたのに対し,移植静脈グラフト全例の吻合部には,抗内皮細胞抗体で染色される内皮細胞は存在せず,内皮細胞の剥脱が認められた.CABG後2日,3日目例の吻合部では,内皮細胞の剥脱した内腔面に壁在血栓の付着と,初期の内膜増殖の反応が認められた.免疫細胞化学的に,これらの細胞反応の中心はTリンパ球とマクロファージであった.加えて少数ながら,HHF35(-),CGA7(-),VIM(+)の表現型を示す紡錘型細胞の存在も認められ,この細胞は脱分化型平滑筋細胞と同定された.一方CABG後9日目の初期増殖内膜では,もはやTリンパ球は存在せず,マクロファージと脱分化型平滑筋細胞が主体であった.
以上より,(1)ヒト静脈グラフトの内皮細胞は動脈系に移植することにより移植直後に広範囲に剥脱し,壁在血栓の付着と細胞反応の進展の原因になる.(2)CABG後きわめて早期にTリンパ球とマクロファージを中心とする初期内膜増殖が認められ,これが引き続いておこる脱分化型平滑筋細胞の遊走・増殖に重要な役割を担っていることが示唆された.

キーワード
冠状動脈バイパス, 免疫細胞化学的検索, 静脈グラフト吻合部, 新生内膜肥厚, 初期変化


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