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日外会誌. 96(7): 456-465, 1995


原著

膵損傷における血清アミラーゼ値の信頼性と診断的意義に関する臨床的検討

1) 北里大学 医学部救命救急医学
2) 北里大学 医学部外科

瀧島 常雅1) , 杉本 勝彦1) , 浅利 靖1) , 菊野 隆明1) , 平田 光博1) , 柿田 章2) , 大和田 隆1)

(1993年12月17日受付)

I.内容要旨
膵損傷では来院時血清アミラーゼ値の正常値例が多く,診断が遅延することが稀ではない.膵損傷における血清アミラーゼ値の信頼性と診断的意義を明らかにするため,自験膵損傷症例67例を来院時血清アミラーゼ値が正常であった群(正常値群,n=15,22.4%)と既に高アミラーゼ血症を呈していた群(異常値群,n=52,77.6%)とに分類し,膵損傷型分類別でも分類して来院時血清アミラーゼ値を比較検討すると共に,保存的治療例の入院後血清アミラーゼ値の推移をも検討した.
受傷から来院までの所要時間(所要時間)は,全体では正常値群(1.3±0.2時間)と異常値群(5.8±0.9時間)間で有意差があり,I型(膵挫傷)とIII型(膵管損傷)でも同様であった.血清アミラーゼ値と所要時間は全体で有意な正の相関を示し,I型とIII型でも同様であった.受傷後3時間以降の来院例に正常値群はなかった.3時間以内の来院例のうち正常値群の頻度は損傷型分類を問わず約1/3であり,3時間以内の来院例の血清アミラーゼ値は各損傷型分類間で有意差がなかった.保存的治療例23例中,受傷後48時間以内に血清アミラーゼ値が正常化した14例(60.9%)中に膵損傷に起因する合併症はなく,48時間以降も高アミラーゼ血症が遷延した9例(29.1%)中3例に膵管分枝損傷や膵仮性嚢胞が合併し,この合併率に有意差を認めた.
膵損傷における来院時血清アミラーゼ値には,所要時間と損傷型分類が強く影響した.受傷後3時間以内の血清アミラーゼ値は膵損傷型分類に拘わらず診断的意義は低く,全身状態が安定しており,受傷原因から膵損傷を強く疑う症例の経過観察に際しては,受傷後3時間以降の血清アミラーゼ値の測定が重要である.確定した膵損傷に対する保存的治療例で,受傷後48時間以降も高アミラーゼ血症が遷延する症例では,膵管分枝損傷や膵仮性嚢胞などの合併の可能性があり,これらの症例に対する慎重な検索が必要であると考える.

キーワード
膵損傷, 血清アミラーゼ値, 膵損傷型分類, 膵損傷の合併症


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