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日外会誌. 96(6): 379-387, 1995


原著

異なる増殖相における同一ヒト乳癌細胞の細胞動態と化学・内分泌療法感受性に関する実験的研究

慶應義塾大学 医学部外科学教室

竹内 透

(1994年1月11日受付)

I.内容要旨
ヌードマウス可移植性ヒト乳癌株を用いて,乳癌細胞の対数増殖相(増殖相)と非増殖相のモデルを確立し,異なる増殖相における組織学的所見,細胞動態および化学・内分泌療法感受性を検討した.無処置雌ヌードマウスに移植されたMCF-7,R-27,Br-10の各株は全く増殖しないか,きわめて緩徐な増殖を示し外因性エストラジオール(E2)投与により対数増殖相に入った.E2を投与せずに一定期間の観察を行い,その後E2を投与すると腫瘍は対数増殖を開始した.増殖相,非増殖相の腫瘍細胞の細胞動態を3H-thymidineを用いたオートラジオグラフィー,分裂指数,bromodeoxyuridine(BrdU)投与後の抗BrdU抗体による免疫組織化学およびフローサイトメトリーにより比較検討した.すべての細胞動態パラメーターについて増殖相の方が非増殖相よりも高値を示したが増殖のまったくみられないMCF-7の非増殖相においてもDNA合成が認められ,この非増殖相はG0期ではなく,DNA合成・細胞分裂と細胞消失が均衡した“proliferating but non-growing state"と考えられた.増殖相と非増殖相にある腫瘍に対してmitomycin C(MMC)6mg/kg腹腔内投与,tamoxifen(TAM)2.5mgペレット/マウス皮下投与をおこなった.これらの治療はMCF-7に対して増殖相,非増殖相ともに同様な抗腫瘍性を示しR-27,Br-10に対しては増殖相細胞に対する方が高い効果を示した.乳癌細胞の感受性は各増殖相において異なることが示され,MCF-7のように非増殖相においても化学・内分泌療法に反応する乳癌細胞が存在することが示唆された.このような非増殖相を対象とした治療実験系は,従来の対数増殖期の腫瘍を対象とした系とは,異なる成績を示す可能性があり特に長期の術後補助療法が効を奏する乳癌の治療実験系として有用と考えられた.

キーワード
乳癌, 術後補助療法, 化学内分泌療法, 細胞動態解析

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