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日外会誌. 96(6): 362-369, 1995


原著

胃癌組織における c-myc 遺伝子の発現に関する研究

大阪市立大学 医学部第1外科

小野田 尚佳

(1993年12月21日受付)

I.内容要旨
癌が,ある種の遺伝子異常に起因していることが明らかとなり,これらの分野での研究が注目されている.しかし,胃癌における遣伝子変化については頻度が低く,特徴的なものはみられていない.c-myc遺伝子は,細胞増殖に重要なはたらきを有する癌遺伝子のひとつで,胃癌症例でも遺伝子産物の組織発現の予後因子としての有用性が検討されているが,一致した見解には至っていない.本研究では胃癌組織におけるc-myc遺伝子のmRNA,遺伝子産物の発現を検索し同遣伝子の発現異常の機序の解析を試み,c-myc遺伝子の異常発現のもつ臨床的,生物学的意義を検討した.
胃癌手術症例43例,46病巣を対象とした.c-myc遣伝子産物の組織発現は,免疫組織化学的染色を用い検討した.mRNAの発現は,AGPC法に工夫を加え少屈の組織からmRNAを抽出し,Northern blot hybridization法で検討した.1)c-myc遺伝子産物の組織発現は20病巣(43.5%)でみられ,組織型や進行度との相関はみられなかった.2)c-myc mRNAの過剰発現は34病巣(73.9%)にみられ,組織型や進行度との相関はみられず,早期癌でも高率に過剰発現が認められた.3)c-myc遺伝子産物の組織発現とmRNAの過剰発現は28病巣(60.9%)の病巣で一致した.4)早期癌ではc-myc mRNAの高率な過剰発現にもかかわらずc-myc遺伝子産物の組織発現がみられる頻度は低かった.
胃癌症例でのc-myc 遺伝子産物の発現異常は,mRNAの過剰発現に強い因果関係があると考えられた.c-myc遺伝子の過剰な発現は胃癌組織においての早期より高率にみられるものと考えられ,c-myc遺伝子の発癌過程への関与が示唆されたが,癌の進展との関係は明らかではなかった.

キーワード
胃癌, c-myc 遺伝子, Northern blot hybridization, 免疫組織化学的染色法


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