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日外会誌. 96(4): 236-244, 1995


原著

乳癌腫瘍細胞核におけるDNA量と核異型度の客観的比較検討

千葉大学 医学部第1外科

山本 尚人

(1993年11月30日受付)

I.内容要旨
乳癌腫瘍細胞核におけるDNAの量的異常が核形態に及ぼす影響を客観的に検討し,従来より生物学的悪性度因子の一つである形態学的核異型度を再評価すると共に,術前穿刺吸引細胞診における悪性度評価の可能性を検討した.
対象は原発性浸潤性乳管癌74例で,手術摘出腫瘤凍結標本を用いFlow cytometry (FCM) により核DNA量を測定し,diploid (D) 群とaneuploid(A)群に分けると共にS-phase fraction (SPF)を求めた.核異型度の客観的評価は,画像解析装置を用い病理組織H-E標本(H-E標本)及び術前穿刺吸引細胞診Pap.染色標本(Pap.標本:検体量十分なもの64例)にて1症例当たり少なくとも100個以上の腫瘍細胞核面積を測定し,平均核面積Nuclear Area (NA) を求め,さらに核の大小不同性の指標として核面積変異係数Coefficiency Variant of Nuclear Area (NA.CV)=核面積標準偏差/平均核面積(%)を算出した.以上より両群間でH-E標本及びPap.標本におけるNA及びNA.CVを比較検討し,さらに各群でSPFとNA及びNA.CVの相関を求めた.
FCMによる核DNA量測定の結果,D群は36例,A群は38例であった.NAはH-E及びPap.標本で共にD群よりA群で有意(p< 0.0001) に高値を呈した.NA.CVもH-E及びPap.標本で共にA群で有意(p=0.0002,p=0.0026)に高値を呈した.すなわち両標本においてA群ではD群より平均核面積が大きく核の大小不同性も著しかった.又,D群におけるSPFとNA,NA.CV及びA群でのSPFとNAの相関はみられなかったが,A群においてSPFとNA.CVはH-E及びPap.標本で共に正の相関を呈した(H-E標本: r=0.4603,p=0.0062,Pap.標本: r=0.4954,p=0.0054).すなわち核の大小不同性はA群においてSPFと相関した.
以上より,乳癌における核DNA量と客観的核異型度は相関があることが示唆された.又,術前穿刺吸引細胞診における悪性度評価が期待された.

キーワード
乳癌, 核異型度, 画像解析, flow cytometry, 悪性度因子


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