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日外会誌. 96(3): 185-193, 1995


原著

動静脈シャント作成による内胸動脈グラフト拡大法

東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所 循環器外科

小柳 俊哉

(1993年10月14日受付)

I.内容要旨
内胸動脈(ITA) の内径拡大法の開発を目的として実験的に内胸動静脈シャントを作成し,実際に内胸動脈が拡大するか否かを検討した.またそれに伴う血管壁構築の変化も併せて観察した.雑種成犬5頭を用い,左内胸動脈とそれに伴走する内胸静脈との間で側々吻合を行いシャントを作成した.平均1.5カ月間飼育した後,血管造影,血流量測定,組織学的観察(内膜表面の状態,中膜厚,中膜弾性線維数,中膜平滑筋細胞の形態)を行った.右内胸動脈を対照として比較検討した.結果は血管内径が4頭で有意に拡大した.5頭の血管内径の平均は2.24mmから2.67mmと有意に拡大し,拡大率は10.4~27.6%(平均19.4%)であった.血流量は平均4.5倍に増加していた.ただし血流量の増加率と内径拡大率には相関はなかった.核の突出,細胞間隙の開大やcrater形成などを主体とした内皮細胞の変化が5頭中3頭でシャント側で対照側に比べ有意に高率に認められた.しかしシャント側での平均内膜変性度は対照側に比較して有意差はなかった.両側とも内膜肥厚や内弾性板の断裂は認めず,シャント側の1頭でのみ中膜弾性線維数の増加がみられた.両側とも内弾性板直下の中膜平滑筋細胞はすべて収縮型を示し,合成型への形質転換は見られなかった.以上より内胸動静脈シャント作成により内胸動脈グラフトの血管内径を拡大することができた.またそれに伴う内皮細胞及び中膜の形態の変化は軽微であった.本法は血管壁構築を温存した内胸動脈グラフト拡大法としてその可能性が示された.

キーワード
内胸動脈グラフト, 動静脈シャント, Wall shear stress, 内皮細胞, 平滑筋細胞


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